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なぎさが言いかけたとき、琥珀はふ、と笑みを零した。

「これで、やっと……やっと、あの子は、救われるんだ」

「……救われる(・・・・)……?」

 彼女は虚ろな瞳のまま、ぼうっとした意識で言葉を紡ぐ。大往生を前にした老人のようにも見えた。

「魔導士、人間、奴 隷、王……何もかも、誰もかもが平等に死に絶える……ああ、みんな同じだ。そこに違いなんてありゃしない……だから言っただろ、魔導士も魔導士でない人も皆一緒(・・・・・・・・・・・・・・・)だって……」

 そう笑いながら、口から糸のように細く零れた血液を乱暴に拭う。
 今の言葉は誰に向けたものでもない。自身に陶酔し、その感情が言葉というカタチを得て溢れ出しただけのものだ。
 それを聞いて、なぎさは拳を握り締めた。

「───琥珀」

 名前を呼ばれてゆっくりとそちらを見やる。もう先程までの笑みもなく、その表情は蝋人形のように無感情のままだった。

「琥珀、琥珀。お願いなのです、聞いて下さい」

 表情は変わらない。だが、一応は耳を傾けてくれているらしい。だが、それも一時の気まぐれでないとは言い切れない。気が変わらぬうちに、彼女を説得しなければ。

「本当に、この世界ごと人々を……こ、殺す気なのですか? アラジンは『世界をルフに還す』シンドバッドを止める筈です。それって、アラジンは、そんなこと望んでない────」

「あの子が望んでいなくても私はやらなきゃいけないんだ!」

 大気がびりびりと震えた。
 これほどの怒鳴り声でもユナンは目を醒まさない。恐らくただ眠っているだけでなく、琥珀の魔法でちょっとやそっとでは起きないようにされているのだろう。
 そして琥珀は感情に任せて怒鳴った後、ばつの悪そうな表情で舌打ちをして、顔を逸らした。

「……ユナンも」

 入り口へ向かって歩き出そうとする琥珀の足がぴたりと止まる。

「ユナン。アリババ、モルジアナ。白龍、ジュダル、シンドバッド、ジャーファル、マスルール」

 ゆらりと振り向いた琥珀の目は奈落。
 どこまでもどこまでも深い闇。クルトの遮る声も聴こえない。触れてはならないところに触れたことも、なぎさは後悔していない。
 それ(・・)を成し遂げた後、きっと一番虚しくなる人を知っているから。

〃→←第■■■夜 後ろ髪



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作者名:名無しさん | 作成日時:2019年11月3日 19時

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