第■■■夜 後ろ髪 ページ6
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かつん、とローヒールのパンプスが木目を叩く。
それと同時に、彼女の服装は見慣れたワンピースに戻った。
「──────」
一瞬。目眩を覚えた。
ぐらりと歪む視界を無理矢理矯正しながら、体内でぐちゃぐちゃになった内臓を再生させる。借金を借金で返す。例えるのなら、それが一番良いだろう。
ひゅうひゅうと鳴る呼吸は荒れて、リズムを掴めない。
「お帰りなさいませ。ところでご主人、体調が優れないのでは?」
「……私の、体調がどうとか、言ってる場合じゃ、ない、でしょ」
苛立ちの含まれた言葉を振り絞り、逆流する血液をどうにか飲み込んで、壁に手をつく。
正面を見れば、少女は怯え切った顔で立っていた。
「───あ、琥珀、ぁ……」
「…………」
彼女を無視し、乱暴に椅子へと腰掛ける。がたんと傾いて転げ落ちそうになった。
体は今にも機能を停止しそうだった。それを再び魔法で動かす。
先程まで行使していた力がなければ、体はまともに言うことも聞かない始末だ。指一本動かすのだって満足にできない。体の節々が、
「……場合によっては、新しいカラダを作る……あの力を使えば、できるか……手伝って、くれるな」
「ええ、勿論です」
金色の目を細め、クルトはそう返事をした。
その一人と一羽の会話を、なぎさは信じられないといった目で見ていた。
煌からここ───ユナンの家まで飛ばされたのはつい先程の話。琥珀が回線をハッキングする直前だ。そして訳の分からないままクルトにそれを見せられた。
琥珀の『工房』は大峡谷のもっと奥にあるらしい。彼女の言う『計画』のためだという。
はっきり言って、先程からなぎさの思考は停止していた。
なんだか周囲が騒がしくなったかと思えば、人々は『ルフに還ろう』などと歓声を上げている。と思えば、ノータイムで足下に展開される魔法陣。何がなんだか分からずに、このユナンの家まで転送されたということだ。
……ああ、確かに最初は驚き、琥珀がルフの書き換えに影響されず、無事でいたことを喜んだ。だが、それもほんの一瞬。琥珀は中継をハッキングし、この世界ごと殺すと明言したのだ。
────そんなこと、納得できるはずがない。
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作者名:名無しさん | 作成日時:2019年11月3日 19時