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ミキサーにかけられた頭では、まともな思考ができない。琥珀だったら、頭を冷やしてから考えろと言うだろう。
だが彼の言う通りであれば、時間は残されていない。悩んでいる暇などない。
膝も笑っている。口は痙攣したように小刻みに震えている。それでも、ぐちゃぐちゃの意志だけは、なんとか固めてみせた。
「───はい。行くのです」
彼はきっと、この選択をすると分かっていたのだろう。頷いて、机上にあった杖をくちばしで指した。
「早速送って行きたいと言いたいところですが、今の私にそこまでできる魔力はありません。工房の魔力も、いざという時のために残しておきたい。
……という訳で、これを。カードケースも忘れずに。彼女の残した贋作ですが、ルーンの力も借りれば空を飛ぶくらいならあなたにもできましょう。多少の特訓は必要ですが⋯⋯まあその間に、私は彼にコンタクトを取ってみましょう。きっと彼も、応えるはずだ」
「でも、おまえの話が本当なら、みんなは⋯⋯」
「心配は必要ありません。原因は未だに不明のままですが、彼も自身の記憶と何らかの
なに、それができなければ────彼の心もそこまで、ということでしょう。その際は無理矢理従わせるのも一興ですね」
「⋯⋯ええと。顔、顔が、怖いのですが」
正直言ってまだ頭はぐちゃぐちゃのままだ。加えて今でも琥珀のことを整理できていない。まだ何も分かっていないと言っても過言じゃあない。
それでも。それでもだ。
彼女を喪ったままなのは、どうしても納得ができなかった。
きっと琥珀には「ガキだな」と笑われるだろう。
そしたら「ガキはどっちだ」と悪態をつこう。
分からなくてもいい。
ただ我慢ならなかった。
努力が無駄になってもいい。
もう一度、彼に会いに行くのにはきっと価値があることだから。
それに────
彼も⋯⋯アラジンも、同じことを思うはずだ。
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作者名:名無しさん | 作成日時:2019年11月3日 19時