第370夜 消えたひと ページ36
◇
ふ、と目を醒ます。
少女はわけの分からないままに、白い髪を揺らしながら体を起こした。
ふかふかとした感触はいつものベッド。どうしてか自分の服装は寝間着ではなく、いつもの服だったが、そんなことを気にするほど、なぎさの頭はまた働いていなかった。
窓から差し込む、柔らかい日光。
そうだ、今は朝なのだろうか。
朝といえば、最近の彼女は寝坊ばかりだった。朝ご飯を作って、それでも起きなかったら、起こしにきてやらねば。
なんとなく隣を見る。
いつも隣で寝ている筈の彼女は、そこにはいなかった。
◇
「琥珀ー? クルトー?」
寝室から出て、なぎさは1人と1羽の名前を呼ぶ。
ダイニングの机の上には、何故か琥珀の武器や杖などが置かれていた。⋯⋯持って行かなかったのだろうか?
───どうしてか、厭な予感が胸を撫でる。
そうすれば、開け放たれていた工房の扉からクルトが飛んで出てきた。⋯⋯どうして開けっ放しにされていたのだろうか。
───いつもはちゃんと鍵もかかっているのに。
白い梟は羽ばたいて、やがてソファの背もたれに止まった。金色の瞳がなぎさを覗き込む。それから、不思議なことを聞く。
「おはようございます。なぎさ、体調などに異変は?」
なぎさは起きた時から少々気怠さを感じていたのだが、言う程のことでもないと思い、それは口に出さないでおくことにした。
「お、おはようなのです⋯⋯どうしてそんなことを聞くのですか? 特にそういうのは、ないのですが⋯⋯」
「それは結構。話があるのですが、先に食事にしましょう。腹が減ってはなんとやら、というやつです。保存食がまだあったはずです」
クルトはそれだけ確認すると、キッチンへと飛び去ってしまう。その動きや言動はいつも通りだ。何も、おかしいところなどない。
────彼女が、いないのに。
なぎさは慌てて彼を追いかけ、問い質す。鈴のような声はかすかに震えていた。
「ちょ、ちょっと待つのです。琥珀は? 琥珀は、どうしたのですか? ご飯なら琥珀と一緒に食べるのです、帰ってくるのを待ってもいいじゃありませんか」
ぴた、と動きを止める梟。
キッチンの棚を漁っていた足もくちばしも、螺子の止まった人形のように。次に発した声は、いつも通りに、抑揚のないものだった。
「琥珀は、もう帰ってきませんよ」
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作者名:名無しさん | 作成日時:2019年11月3日 19時