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第370夜 消えたひと ページ36





 ふ、と目を醒ます。
 少女はわけの分からないままに、白い髪を揺らしながら体を起こした。

 ふかふかとした感触はいつものベッド。どうしてか自分の服装は寝間着ではなく、いつもの服だったが、そんなことを気にするほど、なぎさの頭はまた働いていなかった。

 窓から差し込む、柔らかい日光。
 そうだ、今は朝なのだろうか。
 朝といえば、最近の彼女は寝坊ばかりだった。朝ご飯を作って、それでも起きなかったら、起こしにきてやらねば。

 なんとなく隣を見る。
 いつも隣で寝ている筈の彼女は、そこにはいなかった。







「琥珀ー? クルトー?」

 寝室から出て、なぎさは1人と1羽の名前を呼ぶ。
 ダイニングの机の上には、何故か琥珀の武器や杖などが置かれていた。⋯⋯持って行かなかったのだろうか?

 ───どうしてか、厭な予感が胸を撫でる。

 そうすれば、開け放たれていた工房の扉からクルトが飛んで出てきた。⋯⋯どうして開けっ放しにされていたのだろうか。

 ───いつもはちゃんと鍵もかかっているのに。

 白い梟は羽ばたいて、やがてソファの背もたれに止まった。金色の瞳がなぎさを覗き込む。それから、不思議なことを聞く。

「おはようございます。なぎさ、体調などに異変は?」

 なぎさは起きた時から少々気怠さを感じていたのだが、言う程のことでもないと思い、それは口に出さないでおくことにした。

「お、おはようなのです⋯⋯どうしてそんなことを聞くのですか? 特にそういうのは、ないのですが⋯⋯」

「それは結構。話があるのですが、先に食事にしましょう。腹が減ってはなんとやら、というやつです。保存食がまだあったはずです」

 クルトはそれだけ確認すると、キッチンへと飛び去ってしまう。その動きや言動はいつも通りだ。何も、おかしいところなどない。
 
 ────彼女が、いないのに。

 なぎさは慌てて彼を追いかけ、問い質す。鈴のような声はかすかに震えていた。

「ちょ、ちょっと待つのです。琥珀は? 琥珀は、どうしたのですか? ご飯なら琥珀と一緒に食べるのです、帰ってくるのを待ってもいいじゃありませんか」

 ぴた、と動きを止める梟。
 キッチンの棚を漁っていた足もくちばしも、螺子の止まった人形のように。次に発した声は、いつも通りに、抑揚のないものだった。


「琥珀は、もう帰ってきませんよ」

〃→←第■■夜 記憶#2



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作者名:名無しさん | 作成日時:2019年11月3日 19時

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