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「それから、工房には私の作ったものが沢山置いてある。もし旅にでも出るのならいくつか持って行くんだ。
あの家も工房も、何もかも全部おまえにあげよう。捨てるもいい、改造するもいい。もう工房に入るな、なんてうるさく言う奴はいなくなる。……全部、おまえの好きに使いなさい」
最後のほうは、少しだけ言葉が震えていた。それから、小さな子供に言い聞かせるような口調。
琥珀の癖だった。人に言い聞かせたり、ものを教える時にはよく出ていた。面倒臭がりのくせに、先生ぶるのが好きなのがなんとなく伝わる、喋り方。
最近はめっきり聞かなくなっていた。最後に聞いたのは、おそらく数年前。それにどこか懐かしさを覚えながらも、心の奥底にへばりついた不安は量を増していく。
「待って、待って下さい、琥珀、それじゃあまるで───」
「なぎさ。
私のエゴに巻き込んで、本当に悪かった。
──────ばいばい」
子供のように小さく告げられた別れ。
それの意味を理解する前に、なぎさの目の前には杖の先端が迫っていた。
◇
きいん、と脳の奥で木霊するような音。なぎさの額に嘴のような杖の先端が軽く触れると、一瞬にしてなぎさはその場に倒れ込む。
軽い体を持ち上げ、琥珀は先程まで自分が転がっていた毛布の上に寝かせる。頭の下に折り畳んだ布を置いてから───寝息を立てるなぎさの頭を、ふわりと撫でた。
「ご主人」
琥珀は立ち上がり、振り向く。クルトの表情は読み取れない。元より、あまり表情の起伏が乏しい奴だった。
「行かれるのですか」
「行かなくちゃ」
足首から
クルトは黙ったまま。何かを言おうとして、そして躊躇っている。琥珀は彼の視線を背中に感じながら、謝罪の言葉を静かに述べた。
「……ごめんな、クルト。お前にも、迷惑ばかりかけてた」
「ご主人が謝るようなことでは……」
「謝らせてくれよ。お前らからすれば、私は寝て起きたらまるで人が変わってたようなもんだろ。……私は、永遠か、一瞬か、よく分からない時を過ごしていたよ。……いや、実際は、酷く短かったような気もする」
刀が机の上に置かれた。かたん、という音が響くのを聞き届け、琥珀は独白のように言葉を続ける。
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作者名：名無しさん | 作成日時：2019年11月3日 19時
