第■■夜 自己嫌悪 ページ18
「なぎさも」
「……ぇ」
「なぎさも、おまえのエゴの塊だろう」
『琥珀』は追い打ちをかけるのを止めない。琥珀を追いつめるのは、自身を追いつめるのと同義。自分の首をゆっくりと締めていくようなものだ。
「大峡谷で彷徨っているのを見て、可哀想になったんだろう? おまえが作った
「……そ、れは」
「おまえの手で生を享けさせたのに、おまえは自らの手で殺そうとしていた。殺す気はなくても、やがて自我を失った頃にはなぎさを食うぞ」
互いの怒鳴り声もどこかへ消え去り、今は二人共互いの荒い呼吸しか聞こえなかった。
言い換えれば『琥珀』は、その文字通り自分を殺しにこの空間まで引き摺り下ろした。
───琥珀の想いに絶対的な善悪は存在しない。
琥珀の中の、『伽藍堂』の『彼女』が悪。
『ゴミ箱』に廃棄された『彼女』が善……決して、そうではない。
だが最終的にどちらを是とし、どちらを非と判断するかは、他人……つまり家族や友人、仲間、神でもなく、琥珀本人だ。
『ゴミ箱』に廃棄された『琥珀』は未来に待ち受ける事実に気付き、自分自身を殺してでも表の琥珀を止めると誓った。
他の誰でもない、アラジンのために。
──アラジンのために世界を殺すと決めた琥珀。
──アラジンのために自分を殺すと決めた『琥珀』。
二つの自我は互いに衝突し、永遠とも一瞬とも思えるような時の果てに、決着はついたようだ。
どれほどの時間が経っただろうか。
二人の『琥珀』は言葉も交わさぬまま、ただその場にいただけ。やがて『琥珀』はぽつりと言葉を零した。
「……私たち、互いが一番嫌いだもんな」
今のはどちらの琥珀の言葉だっただろうか。
琥珀は自嘲的な笑みを零し、溜め息と共に小さな声で吐き出した
「結局、一番自己中心的だったのは……私自身、だったってこと……」
いや、最早区別は必要ないだろう。
元々ひとつだったものが複数に別れることはできない。それはあってはならないことだ。そして琥珀はこの『ゴミ箱』が存在していたことに気付いた。近いうちにここは崩壊し、分断されていた自我と思考が再び一つに混ざり合い、自我は元通りになるだろう。
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作者名:名無しさん | 作成日時:2019年11月3日 19時