検索窓
今日:12 hit、昨日:1 hit、合計:15,242 hit

ページ6





 部屋に戻ると琥珀は既に眠っていた。ベッドの一番奥側で胎児のように丸まっている。彼女を起こさないように、四人はいつも通り並んで雑魚寝をする。

 死んだように眠る琥珀を見て、アリババやモルジアナは先の戦で疲れたのだろうと思っていた。
 でも、アラジンは違う。
 ジャーファルが持って来たと思わしき食事には手をつけられていない。グラスに入った水は少し減っていたが、幼児が飲みこぼしたように水滴が落ちていた。

 だが、眠っている琥珀をわざわざ起こすのも忍びない。今はとにかく彼女を休ませようと思って、今日のところはアラジンも休眠をとることにした。











 夢を見る。

 少女が泣いていた。その腕には、彼女と同じ年頃の青年が抱かれている。
 空は灰色に染まり、真っ黒な太陽が唯一残された生者である彼女を睨んでいた。

 これは、最悪の結末だ。

 本能的に彼は感じ取る。
 かつて存在した世界。そこが滅びた時と酷似している。

 でも、ここは理想郷(アルマトラン)ではない。

 だというのに。
 そもそもこれは、初めて見る景色のはずなのに。


 ───自分は、この結末を、()っている。


 動かなくなった青年/自分を抱いて、彼女は喉が潰れる程、ただ泣き叫んでいた。
 涙が伝うその頬に、あの時のように触れようとして、腕が動かなくなったのを覚えている。

 世界が完全に終焉を迎える刹那、白い動物が彼女に話しかけたのを見ていた。
 そして、自分はあの動物に後を託したのだ。

 アレが何かなんて知らない。それでも願わずにはいられなかった。
 彼女にこの世界を救って欲しいとか、自分が死ぬ運命を変えて欲しいとか、そんなものじゃない。そもそもそれは、元は自分の役目であって、どんな理由があれ彼女に押し付けていいものではない。

 ただ彼女が再び笑っていてくれれば良かった。
 自分と会う事もなく、彼女の忌み嫌う戦いから身を引き、もう痛みさえ知らず。
 自分以外の誰かと一緒になり、家庭を築き、苦しみを知らず───ただ平和に暮らしてほしかったのかもしれない。

 きっとそれは自分勝手な願いだ。
 彼女に戦など似合わないと、もう傷付いて欲しくないと思うのは、自分の勝手な願望に過ぎない。



 それでも。
 もう、泣かないでほしかった。



 いつかどこかの記録(きおく)を識りながら、涙が頬を伝った。

第200夜 男の涙/舞台裏→←〃



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (9 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
53人がお気に入り
設定タグ:マギ , 夢小説 , トリップ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:名無しさん | 作成日時:2019年8月4日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。