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部屋に戻ると琥珀は既に眠っていた。ベッドの一番奥側で胎児のように丸まっている。彼女を起こさないように、四人はいつも通り並んで雑魚寝をする。
死んだように眠る琥珀を見て、アリババやモルジアナは先の戦で疲れたのだろうと思っていた。
でも、アラジンは違う。
ジャーファルが持って来たと思わしき食事には手をつけられていない。グラスに入った水は少し減っていたが、幼児が飲みこぼしたように水滴が落ちていた。
だが、眠っている琥珀をわざわざ起こすのも忍びない。今はとにかく彼女を休ませようと思って、今日のところはアラジンも休眠をとることにした。
◆
夢を見る。
少女が泣いていた。その腕には、彼女と同じ年頃の青年が抱かれている。
空は灰色に染まり、真っ黒な太陽が唯一残された生者である彼女を睨んでいた。
これは、最悪の結末だ。
本能的に彼は感じ取る。
かつて存在した世界。そこが滅びた時と酷似している。
でも、ここは
だというのに。
そもそもこれは、初めて見る景色のはずなのに。
───自分は、この結末を、
動かなくなった青年/自分を抱いて、彼女は喉が潰れる程、ただ泣き叫んでいた。
涙が伝うその頬に、あの時のように触れようとして、腕が動かなくなったのを覚えている。
世界が完全に終焉を迎える刹那、白い動物が彼女に話しかけたのを見ていた。
そして、自分はあの動物に後を託したのだ。
アレが何かなんて知らない。それでも願わずにはいられなかった。
彼女にこの世界を救って欲しいとか、自分が死ぬ運命を変えて欲しいとか、そんなものじゃない。そもそもそれは、元は自分の役目であって、どんな理由があれ彼女に押し付けていいものではない。
ただ彼女が再び笑っていてくれれば良かった。
自分と会う事もなく、彼女の忌み嫌う戦いから身を引き、もう痛みさえ知らず。
自分以外の誰かと一緒になり、家庭を築き、苦しみを知らず───ただ平和に暮らしてほしかったのかもしれない。
きっとそれは自分勝手な願いだ。
彼女に戦など似合わないと、もう傷付いて欲しくないと思うのは、自分の勝手な願望に過ぎない。
それでも。
もう、泣かないでほしかった。
いつかどこかの
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作者名:名無しさん | 作成日時:2019年8月4日 23時