検索窓
今日:3 hit、昨日:1 hit、合計:15,233 hit

ページ39






「───触覚と、視覚が……」

 アラジンの話を、ユナンはただ黙って聞いていた。腕を組み、彼らしからぬ表情には不安が顔を覗かせている。

「いや、多分もう、味覚もほとんどないのです」

 唐突になぎさがそう言い、アラジンは尋ねる。

「どうして分かるんだい?」

「ほら、一度だけ、なぎさが食事を運んだ時があったでしょう。あの時、スープの中に琥珀の嫌いな辛いヤツを入れたのです。
 ……帰ってきた皿は空っぽでした。ほんのちょっとの辛味にも過剰に反応するあの琥珀が、アレを完食できるとは思えないのです……」

 幼い顔の眉間には皺が刻まれる。
 これで触覚、視覚、味覚はほとんど失われているといっていい。残る耳と鼻も時間の問題だろう。

「なぎさ。何か心当たりは?」

 ユナンが尋ねるが、なぎさはふるふると首を横に振った。
 完全に手詰まりだ。原因不明の病魔が今も琥珀を蝕んでいるというのに、何もできない。そんな焦りが背中をなぞる。

 ───あれが病気などではないと分かったのは、これから数年後の話だ───








 ユナンが大峡谷へと帰り、中庭にあったすてきなお家は光の粒になって消え去る。
 残されたなぎさとアラジンは噴水に腰を下ろし、なるだけ小さな声で話していた。

「ユナンが最後の最後、頼みの綱だったのですが……あいつも、琥珀のことを話してくれなかった……」

 俯いて肩を震わせるなぎさの背中をさすりながら、アラジンは静かに口を開いた。

「朝、食事を持っていった時もまだ琥珀さんは眠ってた。昨日の昼からだ。いつ起きているのかも分からないし、そろそろ『会談』も近い。今すぐにでも話をしたいけど、そうはいかないんだ……なぎさちゃん、君は『会談』に来るかい?」

「……なぎさが?」

 一度アラジンを見上げてから、再び視線を揺れる草花へと落とす。
 決めるのは早かった。

「───行くのです。アラジンの故郷の話をするのですよね?」

 アラジンは頷く。なぎさにだけは、触り程度だが先に話をしていた。アラジンも驚いたのだが、なぎさは別の世界の話を特に驚きもせず、すんなりと受け入れた。

〃→←〃



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (9 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
53人がお気に入り
設定タグ:マギ , 夢小説 , トリップ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:名無しさん | 作成日時:2019年8月4日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。