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「この文字を刻むことで魔法を使えるのですが、ええと、この文字一つ一つに意味があるのです。なぎさが琥珀から教えてもらったものは、まだあんまりないのですが……例えば」
目の前の皿からパンを一つとり、掌に乗せて目線の高さまで持っていく。
緊張したような面持ちのまま───そのパンに向かって、三本で構成された文字を空中に刻んだ。
途端、パンは発火する。
数秒もすれば燃やし尽くされ、炭がぱらぱらとテーブルの上に落ちた。
「まあ、なぎさはまだ弱っちいのですから、なぎさ自身の
「────な」
アラジンは再び目を丸くする。自分の記憶が確かであれば、なぎさは『魔導士』ではない。だが彼女は今、目の前で
そしてその『ルーン』というものは、ユナンも知り得ないものらしい。
つまり琥珀は、ユナンですら知らない魔法の知識を持っている。アラジンは食事の手も止めて、なぎさを問い質す。
「……なぎさちゃん。それは『魔法』かい? 琥珀さんから教えて貰ったんだよね? 他に何か、なにか聞いてないのかい!?」
「え、え? あ、いや、『魔法』じゃなくて、ええとなんだったっけ……確か琥珀は───『魔術』だとか、なんとか……」
「───『魔術』?」
再び椅子に座って考え込む。アラジンからすれば聞いた事もない単語だ。
琥珀のことを知ろうとすればするほどに疑問は深まるばかりで、アラジンは頭を悩ませていた。本を読もうとしたら、次から次へと分からない単語が出てくるようなものだ。
「……まあ、それより」
ユナンがぱん、と手を叩いた。
「なぎさ、君は僕に聞きたいことがあって来たんだろう?」
逸れた話題を元に戻す。なぎさは隣に座るアラジンをちらと見てから、申し訳なさそうに視線を落とした。
「なぎさは、アラジンと……ユ、ユ、ユナン、の、話が終わってからでいいのです。なぎさには難しい話だと思うから、黙って待っているのです。
……今更になるのですが、勝手に入ったりして、ごめんなさい」
軽く頭が下がり、ふわふわの白い髪が流れ落ちた。ユナンはそれを微笑みで返す。
「そんなに気にしないで。実は僕も、君に聞きたいことがあったんだ」
「え?」
「まあでも、そこまで言うのなら後回しにしよう。……それに多分、僕の話は、君に無関係というわけでもないと思うよ」
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作者名:名無しさん | 作成日時:2019年8月4日 23時