第204夜 シンドバッドとユナン ページ25
◇
柔らかい日の差し込む
「アラジン様、寝食も惜しんで研究なされては……」
「『アラジン様』はやめておくれよ」
「しかし、『マギ』でヤムライハ様の恩人とあってはね」
そんな何度目かも分からない軽いやりとりを交わした後、アラジンは再び魔導書へと目を落とす。
集中しきっている彼にもう話しかける人間はいない───はずだった。
『ねえアラジン』
どこか疲れた未亡人を彷彿とさせるような話し方。聞いた人間を落ち着かせるような声、と言えば聞こえはいいが、言ってしまえば覇気も確固な意志もなさそうなものだった。その上鼻歌を歌っているようで、真偽が読みづらい。
『なんの本を読んでるの？』
その声にアラジンは普通に返答する。
「これかい？ ルフについての魔導書さ。この世界にはもっともっと秘密がある気がして」
声は自分から聞いたくせに、ふうん、と興味なさそうに言う。
『ところでその魔法道具、すてきだね』
本の内容を聞いたかと思えば、すぐに話題を変える声。アラジンのかけた丸眼鏡のことを聞いているのだろう。アラジンの小さい顔の半分を占めているそれは、知的というより可愛らしいようにも見える。
「そうでしょ。イレーヌ先生に貰ったんだ。古くて読みにくくなっちゃった文字でも、文字がおしゃべりしてくるみたいにすらすら読めるんだよ……」
アラジンはそこでやっと気付く。今自分の周りには人がいない。更に先程から聞こえる声は、大気中の空気を震わせて聞こえるものではなく、まるで自分の頭に直接語りかけてくるようなものだった。
「───！？ 誰だい、僕に話しかけているのは───」
勢いよく振り返った先。本に囲まれたこの高い塔で、四階あたりに浮かぶ影があった。
ふわりとアラジンの眼鏡が浮かんだ。それは彼の手元までゆっくりゆっくり飛んで行く。
やがて彼は、その眼鏡を自分に着けたままアラジンの所まで降り立った。
「やぁ、ユナンだよ！」
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作者名：名無しさん | 作成日時：2019年8月4日 23時
