magi 20

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背を向けた『依り代』に紅炎が斬り掛かる。ただ斬りつけるだけでなく、斬ったそばから爆発していくアシュタロスならば────

「────チッ」

　気付けば、無数の腕が紅炎へと向いていた。後ろに飛び退いた頃にはもう遅く、その体は硬く握り締められる。体の表面が蒸発するような違和感を覚えると同時に、すかさずアシュタロスの炎が腕を斬り落とした。

「お兄様っ！」

　地面に落とされた手の中から紅炎が這い上がる。
　ぼたぼたと粘性のある、赤いものが垂れた。

「……『魔装』が引き剥がされた」

「ぐ、ぅっ……！」

　正しくは皮膚も、だろう。
　皮膚下の筋肉、果ては骨までが露出している。アリババは左腕だけに留まったが、それでも深層部分が露出するなど、想像を絶する痛みが走るだろう。それを全身に受けた紅炎は表情ひとつ変えない。爛れた自らの皮膚をただ分析するように眺めていた。

　確かに、今まではあの痩せた木偶を舐めていたのかもしれない。
　だが自分の大切な友人と兄をあそこまで痛めつけた奴を、どうして許すことができようか。

「私のお兄様とお友達に───何してくれんのよ、この化け物がッ！！」

　叫んだ紅玉に気付き、無数の手が襲いかかる。

「『水神槍(ヴァイネル・アロス)』！」

　剣を軸にした水の槍。その強力な一撃も、ルフを吸収する『依り代』には効かない。

「穴だらけにおなり───」

　紅玉の周りに、水で構築された無数の槍が展開される。

「『水神散弾槍(ヴァイネル・アルサーロス)』ッ！！」

　一撃で効かないのならば、数で押すまで。
　だが、回転しながら突き進む水の槍でも『依り代』は傷つけられない───と、思われた。

　ず、と足に深く突き刺さった。
　それを皮切りに、依り代の腹や胸に突き刺さる水の槍。そしてさらに追い打ちをかけるように、バランスを崩して倒れた体躯に槍の雨が降り注いだ。