magi 20

今日:1 hit、昨日:16 hit、合計:17,965 hit

第191夜ルフを喰うモノページ7

◇

「なんだと？」

　炎と煙に包まれる『依り代』を見て、紅炎は顔をしかめる。『依り代』と空に浮かぶ雲から手を伸ばす『何か』を繋ぐ柱は圧し折ったものの、『依り代』の『防壁』は完全には砕けなかった。三つの極大魔法でも、亀裂を走らせる程度にしかダメージを与えられなかったのだ。
　そこでふと、紅明が疲れた顔をしてぼやいた。

「兄王様……これ、私いつまで街の被害を他へ転送し続ければいいんですかね。結構しんどいんですよ」

「がんばって明兄ー」

　街に残された人々へと降り掛かる炎と煙を、紅明は金属器『ダンダリオン』で転送していた。彼の言葉と紅覇の応援で、アラジンはあることに気がついた。

「そうだよ、おじさんの炎、極大魔法が終わったのに消えないよ！？」

「アシュタロスの極大魔法の白い炎は、俺が命じぬ限り永遠に消えはせん。このまま放っておけ。『防壁』が破れなくとも、そこから這い出て来た『黒いジン』は産まれたとたんに灰になる。『依り代』もやがて魔力を使い果たそう」

　紅炎の言う通り、『依り代』より産まれた『黒いジン』は日の目を見る事もなく、短い断末魔と共に蒸発した。

「うわぁ」

「おっかねー技だな」

「なんかこう、産まれる意味を考えさせられるよね。哲学的」

　産まれては消え行く命を三人並んで眺める。束の間の休息でもある時間で、琥珀は珍しく肩で息をしていた。

「おい、何を呆けている？今のうちに極大魔法で消耗した魔力を溶岩流から補充しておけ！」

「あっ、そうですよね！」

　敬語に戻ったアリババに琥珀も続く。
　────その三人の前を先制するように、幾つもの手が伸びていった。

「……ひ、火が消えた！？」

　その数は数十にも及ぶだろう。まるで熱さなど感じないとでもいうように、溶岩流目がけて無数の手たちは飛び込んで行く。その手に触れられた瞬間に、アリババの言う通り……溶岩は真黒に冷え固まり、炎は鎮火された。

　理解の追いつかない頭で腕の主────依り代へと振り返る。
　『依り代』は、放出した『黒いジン』を取り込んでいた。
　球体はやがて四本の手足を生やす。地面に膝をつく。

　その姿はあまりにも異様だった。
　頭はなく、体はやせ細っている。それは枯れた老人にも、産まれたばかりの赤子にも見えた。ずしん、と砂埃をあげながら前に倒れ込む『依り代』を見下ろし、紅炎は静かに呟く。