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だが、あの大戦において猛威を振るっていたものではないようにも見えた。その巨躯は彼女が指で摘めるほどの大きさになっているし、表情はどこか怯えているようだった。
あのネコが吐いたものを、彼女は厭わずに拾い上げた。
見てみれば、地面には胃液や唾液といったものもない。『黒いジン』も、小さくなっている以外に異変は見られない。
『黒いジン』はネコに喰われた際に気付いていた。
アレは、ネコに似たカタチをしただけの、口だけの生き物だということを。
内部からの抵抗も意味を為さない。内外問わず、あらゆる攻撃を無効化する────
『影絵の魔物』。
あのネコは鞄から出てきたのではなく、鞄が映し出していた映像。
大気に映し出された
あの大戦の中、このネコが傷ひとつ負わなかったのはこういうことだ。鞄は街の人目につかない場所に置いてあり、また鞄が開いている間には小さな結界が張られるようにできている。
それ故このネコは、皆が健気に戦っている間も『黒いジン』を倒しているように見えて、その体内に取り込んでいたのだ。
けろけろと吐き出される小さな『黒いジン』。もはや抵抗するだけの気力もなく、本能的に目の前の彼女に怯えている。
彼女はヒィ、と声を漏らし震える『黒いジン』を見て、愉しそうに目を細めた。
『黒いジン』に知能はほとんどないと言っていいだろう。それでも、生物としての本能だけは、目の前の少女を危険だと警報を鳴らしていた。
───くぱ、と彼女の口が開かれる。
唇の内側にあったのは底なしの空洞。
唾液に濡れた舌が、月光にてらてらと輝いていた。
「私、お腹、空いてるんです……美味しくは、なさそうですけど……安心してください、それが何であろうと、
悲鳴が彼女の口内に飲み込まれるその瞬間、
彼女はひとつ瞬きをして、ソレを食べるのを止めた。
「……どうして、ですか？」
『黒いジン』は何も言っていない。そもそも、言葉を話す知性自体持ち合わせてはいない。
そして、彼女の周り───荒れ地と化したここには、彼女以外誰もいない。
これは彼女の独り言でしかない。
そしてその異常に、彼女は気付かない。
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作者名：名無しさん | 作成日時：2019年7月9日 0時
