magi 20

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第■■夜捕食ページ33

◆

「ええ。今までのは全て、前座……余興に過ぎません」

　彼女はたったその一言だけで、この地に生き、死んだ人々を踏みにじった。

「ああ、シンドバッドさん(あのひと)のように言うのであれば───布石、でしょうか……うふ、うふふふ……」

　その足は地面を舐めるように、ひたひたと進んでいく。
　ひたひた、ひたひた、ひたひた。

「私にとっては、誰が死んでいようが誰が生きていようが、本当はどうでもよかったんです」

　心底疎ましそうに目を細める。
　急に立ち止まって、空中に漂う黒い鳥を摑み取った。

　黒ルフの残滓。
　ジュダルが持っていったものの残りかす。

　それを彼女は、ぽいと口に放り込んだ(・・・・・・・)。
　奥歯ですり潰される黒い翼。味のしないソレを、彼女は表情一つ変えずに飲み下した。

　いや、正しく言うのならば、これはジュダルが取り零したものではない。
　彼女はあらかじめ、捕らえるための網(・)をここ一帯に張り巡らせていた。いずれジュダルに弊害を及ぼさないように、純粋な魔力(エサ)だけを捕らえられるように。

◆

　ひたひた。
　ひたひた、ひたひた。

　夢遊病患者のように、からっぽの頭をゆらゆらと揺らしながら、彼女は歩いていく。
　時々、お腹を空かせては、そこらに漂う黒い鳥を掴んで食べた。

　お腹が空いたから。

　おいしそうに見えたから。

　そんな理由で/本能に従って彼女は歩いていく。

　ひたひた。
　てくてく。

　どこかで、ジジジジ、と音が鳴っていた。
　にゃおん、と足下で鳴き声がした。
　それに起こされて、彼女は地面を見る。

　ネコは、ごろごろと喉を鳴らしながら彼女の足にすり寄っていた。
　その額にはエジプトの象形文字じみた目がついている。大きさは、少し大きめの猫と同じくらい。けれど、その体に厚さというものはなかった。

　彼女はしゃがんでネコの頭を撫でると、ネコは急に嘔吐(えず)き始めた。
　やがて、けろ、と何かを地面に吐き出した。
　それを見て、彼女は嬉しそうにネコの体を撫でる。

「えらいなあ、ほとんど残してくれたのか」

　そう言って、彼女は地面に放り出されたソレを、一匹だけ指でつまみ上げる。
　────ソレは、『黒いジン』だった。