〃 ページ34
「あ、ええ、まあ、ちょっと、興味があって……」
モガメットは目を細めてその巻物を数分ばかり見つめた後、再び笑みをその顔に浮かべる。
「天然鉱物を使用した魔法道具か。このやり方であれば一から魔法道具を作る必要もなく、費用はかかるが、手間はかからない。素材さえ用意できればすぐに使用ができるか。……その歳でここまで研究を進めるとは。いい子だ、琥珀」
「……ありがとうございます」
琥珀は魔法が解ける前に手早く巻物と荷物を片付けると、足早に図書館を去ろうとする。それをモガメットは静かに制止した。
「待ちなさい、琥珀」
「……まだ何か」
「その研究、論文にして発表する気はないか？」
「────は？」
◇
「ファック……」
世界最高峰の魔導士育成機関、マグノシュタット学院。
その学院が誇る校舎内、広い廊下に、厳かな雰囲気に似つかわしくない言葉が響き渡った。
それから彼女は同じ言葉を数回静かに繰り返し、運命というものを盛大に罵倒しながら再び大きな溜め息をつく。
────面倒なことになった。
事の発端は、大きすぎる図書館の一角で起こった事件(琥珀はそう思っている)。なんとかあの場を切り抜けられたと思ったが、学長は琥珀の用意した『適当な研究』に目をつけていた。
琥珀からすれば、普段使っているようなものをただ字面に起こしただけのものだ。それでもこの学院から見てみれば、それは大きな発明となるらしい。
琥珀はもう何度目かも分からない溜め息を漏らす。油断していた自分が悪いといえば悪いのだが、面倒な事になってしまった。
あれから半日と経たない内に、ただの字の羅列をご大層な論文に仕立て上げさせられ、それから今へと至る。あの時モガメットに見られたものだけでなく、追加でいくつも書いた琥珀の顔はどこかやつれていた。
重い手足を動かして大講堂の大きな扉を開ける。もう夕食時だというのに、上級魔導士や学徒などで溢れ返っていた。立ち見している姿まで見られる。そのどれもが皆一様に、扉を開けた琥珀を興味深そうに眺めていた。
再三繰り返すようだが、琥珀からすれば理解のできないことだ。何度も繰り返した彼女にとってはこの程度の魔法、魔法道具、何の足しにもなりはしない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 42人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
名無しさん(プロフ) - 恋葉さん» ボードのほうに書き込ませて頂きました。ご確認をお願い致します。 (2019年12月7日 1時) (
レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
恋葉(プロフ) - こちらこそ、返信が遅くなってしまい、すみません…。 そこまでで大丈夫です！箇条書きで私以外の人も見ることができるのなら是非、箇条書きでお願いしたいです。私はこの作品を作る作者様が本当に素晴らしいと思います。この話をいつまでも応援させていただきますね！ (2019年12月6日 13時) (レス) id: 18327d4b2f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - →箇条書きなどで簡潔に纏める程度、そして恋葉さんのボードに書き込む形でもよろしければ、是非書かせて頂ければと思います。 (2019年12月4日 18時) (レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - →ここまでの話というのは15.5まででよろしいでしょうか？ 後日、夢主がこうなった経緯の何から何までを作中のキャラクターに説明させる予定なので、あまり細かい描写はお約束できませんが…→ (2019年12月4日 18時) (レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 恋葉さん» 恋葉さん、はじめまして。コメントありがとうございます。それから、返信がとても遅くなってしまい申し訳ありません。 理解力が長けていないなんて、そのようなことはありません。自分でもすごく分かりづらい話を書いているなあと毎日思っています。→ (2019年12月4日 18時) (レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：名無しさん | 作成日時：2019年3月11日 18時
