〃 ページ33
「……ええ、そうですが。学長先生こそ、なぜこんな不良の元へ？ 説教ですか？ 時間の無駄としか思えませんが」
その嘗めた態度に、モガメットの後ろについていた上級魔導士たちは顔をしかめる。だがモガメット本人は軽く微笑むと、琥珀の手と魔導書で隠された巻物へ目を向けた。
「無駄などではないよ。なに、授業にもまともに出席しない、コドル１で編入した優秀な魔導士がいると聞いてな」
そう言い、モガメットは再び顔をほころばせた。琥珀からすれば不信感の募るような言い分と立ち振る舞いだが、彼女はモガメットの人となりを知っている。彼は本気で世界中の魔導士の幸せを願う人間だ。
それでも、今回ばかりは全てを曝け出すわけにはいかない。
「……ですから、なぜそのろくでもない私のもとへ────」
「ところで琥珀。
「─────」
琥珀は思わず手を滑らせ、机からは魔導書や書物がばさばさと床へ落下する。そのせいで彼女が先程まで書いていた巻物が机上へ曝け出される。
人の寄り付かない、図書館一番奥の席。加えて人払いの結界。暗示。その全てがこの男、いや、一部の上級魔導士たちには効いていないのだろうか。
……それが本当に彼らに通用していない？ 否、それはありえない。ならば、信じたくはないがやはり自分の力が衰退していたのか、はたまた、上級魔導士や学長達に勘づかれないよう最小限にしていたのが裏目に出たか────
琥珀の頭の中で考えがぐるぐると掻き混ぜられる。以前のように自分を落ち着かせることも、追加の暗示をかけることもできない。
息が荒くなる。
ここで失敗すれば、また最初からやり直しだ。
五年、十年、十五年、もっと、もっともっと────
「ほう、魔法道具の開発か」
「……え？」
琥珀は巻物の上に置かれた自分の手をどかし、それを見つめる。先程まで自分が書き進めていたものではなくなっているのに気付いたのはそのときだった。
やっと思い出す。いざという時のために、この巻物自体に琥珀は魔法をかけていた。
意図せず他人に見られた場合、それは作動する。
改竄。
それまで自分が書いていた内容を、予め用意していた全く別のものに書き換える/置き換える。この場合は彼女の進めていた『研究』を、適当な魔法道具の開発などに変えていた。
あまり長続きするものではないが、琥珀はこの時ばかりは念には念を入れてかけておいた魔法に感謝した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 42人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
名無しさん(プロフ) - 恋葉さん» ボードのほうに書き込ませて頂きました。ご確認をお願い致します。 (2019年12月7日 1時) (
レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
恋葉(プロフ) - こちらこそ、返信が遅くなってしまい、すみません…。 そこまでで大丈夫です！箇条書きで私以外の人も見ることができるのなら是非、箇条書きでお願いしたいです。私はこの作品を作る作者様が本当に素晴らしいと思います。この話をいつまでも応援させていただきますね！ (2019年12月6日 13時) (レス) id: 18327d4b2f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - →箇条書きなどで簡潔に纏める程度、そして恋葉さんのボードに書き込む形でもよろしければ、是非書かせて頂ければと思います。 (2019年12月4日 18時) (レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - →ここまでの話というのは15.5まででよろしいでしょうか？ 後日、夢主がこうなった経緯の何から何までを作中のキャラクターに説明させる予定なので、あまり細かい描写はお約束できませんが…→ (2019年12月4日 18時) (レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 恋葉さん» 恋葉さん、はじめまして。コメントありがとうございます。それから、返信がとても遅くなってしまい申し訳ありません。 理解力が長けていないなんて、そのようなことはありません。自分でもすごく分かりづらい話を書いているなあと毎日思っています。→ (2019年12月4日 18時) (レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：名無しさん | 作成日時：2019年3月11日 18時
