第＊＊夜 面倒事 ページ32
「いや、今日も休む。先生にはもう言ってあるから」
琥珀はそれだけ言い残し、ゲルダの制止も聞かず部屋を後にした。
ここ最近、ゲルダから見て琥珀の様子はどこかおかしかった。会ってから数週間しか経っていない仲だったが、それでもゲルダは真摯に彼女のことを心配していた。
ろくに授業にも出席しない、したと思えば話を聞かず机に向かいっぱなし、もしくは居眠り……いや、居眠りというレベルではなく、爆睡。そんな話をコドル１の教師から聞いていた。
「……ねえ、ベベちゃん。琥珀、一体どうしちゃったのかしらね」
静かになってしまった部屋でぬいぐるみに話しかける。勿論、そんな布と綿でできている筈のものに返事を期待している訳ではない。だが、
「────×××」
「……え？」
自分も授業に向かおうとベッドから立ち上がった瞬間、確かにそれは何か……言葉、のようなものを発した。
「……ベベちゃん？ いや、まさか」
どこか夢見がちな面があるゲルダでも、この何処からどう見てもぬいぐるみのベベが話すとは思えない。確かにその声を聞いた後でも信じることができないでいた。
「まさか、ね」
試しに胴体や頭を軽くつねったり揉んだりしてみるが、その感触はクッションや枕となんら変わらない、ただの綿だ。
やはり自分の勘違いか何かだったのだ、とゲルダは自分に言い聞かせ、部屋を後にした。
「────××、×」
静かになった部屋に、ぬいぐるみの小さな声が響いたのはそれから間もなくの時だった。
◇
つまるところ、私はまだ弱かったのだ。
けれど、その私ももういない。殺したから。
私は強くならなければいけない。
私は常に、誰よりも、強くあり続けなければいけない。
その願いが、私を動かし続ける限り。
◇
かたん、とペンが図書館の机に置かれる。彼女が自分の正面に落ちた影に気付いたからだ。それから影の主を見上げ、表情を変えずに彼女はほんの少し驚いた。
老齢の巨木のような影の主は琥珀と目を合わせ、ゆっくりと声を発する。
「────『琥珀』は……君か？」
マタル・モガメット。
マグノシュタット学院、いや、マグノシュタットといういち国家の長。さらに彼の後ろには何人かの上級魔導士の姿も見えた。皆一様に琥珀を推し量るような目で見下ろしていた。琥珀は彼らにも怖じ気付くことはなく、さりげなく手元の書き物を魔導書で隠しながら、涼しい目をしたまま追い払うように言葉を返す。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 42人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
名無しさん(プロフ) - 恋葉さん» ボードのほうに書き込ませて頂きました。ご確認をお願い致します。 (2019年12月7日 1時) (
レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
恋葉(プロフ) - こちらこそ、返信が遅くなってしまい、すみません…。 そこまでで大丈夫です！箇条書きで私以外の人も見ることができるのなら是非、箇条書きでお願いしたいです。私はこの作品を作る作者様が本当に素晴らしいと思います。この話をいつまでも応援させていただきますね！ (2019年12月6日 13時) (レス) id: 18327d4b2f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - →箇条書きなどで簡潔に纏める程度、そして恋葉さんのボードに書き込む形でもよろしければ、是非書かせて頂ければと思います。 (2019年12月4日 18時) (レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - →ここまでの話というのは15.5まででよろしいでしょうか？ 後日、夢主がこうなった経緯の何から何までを作中のキャラクターに説明させる予定なので、あまり細かい描写はお約束できませんが…→ (2019年12月4日 18時) (レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 恋葉さん» 恋葉さん、はじめまして。コメントありがとうございます。それから、返信がとても遅くなってしまい申し訳ありません。 理解力が長けていないなんて、そのようなことはありません。自分でもすごく分かりづらい話を書いているなあと毎日思っています。→ (2019年12月4日 18時) (レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：名無しさん | 作成日時：2019年3月11日 18時
