〃 ページ4
琥珀がぽかんとしてその背中を見送る中、健彦は何が面白いのか、琥珀の背中をバシバシと叩きながら大声を上げて笑い出した。面倒臭そうにはしていたが、なんだかんだで彼女の再びの訪問を彼は喜んでいるのだ。
「おまえも宿なんて言わず、王城に泊まればいいやか！」
「ちょ、痛い、痛いって」
笑い飛ばす健彦とは対照的に、琥珀はひとつ溜め息をつく。国にとっての重要な客人みたいに扱われるのがあまり気に入らなかったからだ。飯が美味いのは良いのだが、仰々しくもてなされるよりは小さな宿で過ごすほうが琥珀の好みだった。前に鬼倭へ来たときもなんだかんだで王城へ泊まることになってしまった。
まあ、そもそも訪れる人がいないこの国に宿はないわけなのだが。
◇
次々と運ばれてくる食事。大きな漆塗りの膳に乗せられていく。
それはもう、次々に。
「……いや、ありがたいんだけど。ちょっと多くね？」
「遠慮しないでくださいよ！ いや本当に！ ケチったら殿に小言言われますし、なにより琥珀さんはとっても羽振りが良いですからね！」
と、七海は言うが、琥珀はどうにも腑に落ちない様子で頭を掻く。街で大量に買い物をしたことも、世話になった鬼倭に寄付という名目で袋に押し込んだ迷宮の報酬を押し付けたこともあったが、それは彼女なりにただ感謝の気持ちを伝えただけだ。とりわけ自分がこんな優遇されるように仕向けた訳ではない。
琥珀やなぎさが手をつける間もなく小鉢や椀が運び込まれる。どれも湯気を立て、食欲をそそる香りが漂っていた。
彼女らが今まで逗留していた国々とは違った食文化。ただ大きな器に食事を乗せたものではなく、それは外見にもこだわっている。旬の野菜、色とりどりの食材。琥珀がかつていた世界では、もう気軽に見ることはできなくなっていたものだ。
広間に食事が運ばれてくる中、なぎさは琥珀の腕をつつく。小声で囁くような声だった。
「琥珀、琥珀。これって、もう食べてもいいものなのですか？」
「あー、別に作法とかあるわけじゃないから大丈夫。食べろ食べろ」
なぎさは恐る恐る椀に被せられた蓋を取る。柔らかく湯気の上がった椀を持ち上げ、中身の味噌汁に口を付けた。
……その目が見開かれる。こんな美味しい和食は始めて食べた、とでも言いそうな表情を浮かべているが、その口は話すために開かれることはなかった。既に次の食材を口に入れている。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 42人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
名無しさん(プロフ) - 恋葉さん» ボードのほうに書き込ませて頂きました。ご確認をお願い致します。 (2019年12月7日 1時) (
レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
恋葉(プロフ) - こちらこそ、返信が遅くなってしまい、すみません…。 そこまでで大丈夫です！箇条書きで私以外の人も見ることができるのなら是非、箇条書きでお願いしたいです。私はこの作品を作る作者様が本当に素晴らしいと思います。この話をいつまでも応援させていただきますね！ (2019年12月6日 13時) (レス) id: 18327d4b2f (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - →箇条書きなどで簡潔に纏める程度、そして恋葉さんのボードに書き込む形でもよろしければ、是非書かせて頂ければと思います。 (2019年12月4日 18時) (レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - →ここまでの話というのは15.5まででよろしいでしょうか？ 後日、夢主がこうなった経緯の何から何までを作中のキャラクターに説明させる予定なので、あまり細かい描写はお約束できませんが…→ (2019年12月4日 18時) (レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
名無しさん(プロフ) - 恋葉さん» 恋葉さん、はじめまして。コメントありがとうございます。それから、返信がとても遅くなってしまい申し訳ありません。 理解力が長けていないなんて、そのようなことはありません。自分でもすごく分かりづらい話を書いているなあと毎日思っています。→ (2019年12月4日 18時) (レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：名無しさん | 作成日時：2019年3月11日 18時
