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あいつは違う、母親なんかじゃないとちゃんと理解するために『大聖母』をその目で見つめる。でもそうすると、むしろもっと、母親にしか見えてこない。
「わ、私の、お母さんよ!」
そう言うと、モルジアナは立ち上がってふらふらと彼女の元へ駆け寄って行く。それに続くように、なぎさもおぼつかない足取りでゆっくりと歩き出した。
「あ────おかあ、さ」
「何バカ言ってんだ、お前ら!どう見ても敵の技じゃねーか!妙なもんに惑わされてんじゃねー!」
ぽたり、と地面に雫が零れた。アリババは驚いて自分の頬に手を当てる。
紛れもなく、自分の涙だった。
アリババの意志とは反して、涙は決壊したダムのように次々と零れ落ちてくる。
「なっ、なんだよこれぇっ……!?」
『
精神撹乱系の魔法道具に分類されるが、その正体は特殊な光の魔法陣による意識の
生まれたばかりの赤ん坊は生存本能により、あらゆる手段で『母親』の存在を認識しようと求めるが、『聖母後光扇』はその本能行動を引きつける強力な雌性ホルモンを信号に変えて相手の脳に送り込むことができた。
生命に宿る原始の性。万人が生まれながらに渇望する最も普遍のもの。
──────母性愛。
それこそが、『大聖母』の武器だった。
「何者も、己の内に渦巻く母への憧れや、郷愁からは……決して! 逃れられないっ!!」
魔法道具から発せられたのは光だけではなかった。雲のように白く澄む煙までも、アリババたちの体を縛り付ける。
「ふっ、ざ……ける、なぁ……!」
アリババは一人剣を向けて抗おうとする。でも、そうすればするほど『大聖母』の慈愛に満ちた微笑みが脳へ張り付いて剥がれない。
『ねえ、こっちへいらっしゃい』
手が差し伸べられる。
『今までたくさんつらいことがあって、疲れたでしょう? おいで。母さんが、抱きしめてあげる』
蕩けるような暖かさ。じわりじわりと溶けていく。
アリババには技だと分かっていた。いや、彼に限らず全員ちゃんとそれは理解していた。
それでも。
それでも、彼女を攻撃したくなかった。
反抗しようとすればするほど、本物の母親に見えてくる。
アラジンにも、母親の手が差し伸べられていた。
『こっちへおいで、かわいいアラジン────』
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名無しさん(プロフ) - みぞれ@絵描き同盟さん» ありがとうございます慈悲をありがとうございます 次の説明欄にて書かせて頂きます!!!! (2019年1月15日 16時) (レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
みぞれ@絵描き同盟(プロフ) - そろそろ14巻に突入なので質問コーナーに出没してみようかと えっと、琥珀姉さんの設定において企画段階と現在で 何か変更した点はありますか? (2019年1月15日 11時) (レス) id: 9020e988e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:名無しさん | 作成日時:2019年1月3日 0時