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「……まるで、こうなることが────」
「ああ、分かっていたよ」
「え?」
ジャーファルは琥珀を見つめる。彼女は相変わらずジャーファルに背を向け、その足は砂の上で彷徨っていた。
「ドゥニヤ・ムスタシムは力を欲した。そして『組織』は『黒い金属器』という形でドゥニヤの望むものを与えた。その対価が彼女の命だったというだけだ」
「────力?」
「何を手に入れるにも対価が必要だ。パンを買うためにはお金がいる。魔法や金属器、眷属器を使うには魔力がいる。『黒い金属器』にはその命が必要だった、ただ、それだけのことだったんだよ」
ジャーファルはただぽかんとしている。
「ドゥニヤは力を欲し、黒い金属器を手に入れ、その代償として命を落とした。……ほら、どこにもおかしな所なんてない。ちゃんと力を手に入れ、対価を支払った。文句は言えない。
どこか思い当たるところでもあるのか、彼女は顔を上げて空を仰いだ。
それから、二人の耳には波の音しか聞こえてこない。
「対、価」
ジャーファルは誰に言うでもなくぽつりと呟いた。
重苦しい空気を断つように、琥珀は口を開いた。
「まあ、ドゥニヤ・ムスタシムは気の毒だった。組織がそんなこと一々説明する奴らとは思えないし、大方甘い言葉で誘って騙したんだろ。世界で一番嫌な詐欺師に当たったもんだ」
見れば、あんなに燃え盛っていた炎はいつの間にか鎮火されていた。琥珀は遠くにいる白龍とモルジアナをちらと見てから、ジャーファルの隣を通り過ぎて船のほうへ行ってしまった。
ジャーファルはもぞもぞと歩き出したやどかりを目で追って行く。
海へ入って行ったやどかりの姿は、やがて見えなくなってしまった。
◇
「ジャーファル、シンドバッド! いるか?」
彼女には珍しく、行儀よく扉をノックしてからシンドバッドの執務室に入って来る。────ノックするまではいいのだが、こちら側の返事は待てないのかとシンドバッドは心中で溜め息をついた。
「全く、昼時とはいえここは仕事場です。食客がそんなに軽々しく入っていい所ではありませんよ」
溜め息混じりに苦言を呈すジャーファルだが、正直な所彼は満更でもなさそうだった。それに気付いているのかいないのか、琥珀は手を顔の前で合わせながら謝罪をする。
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名無しさん(プロフ) - みぞれ@絵描き同盟さん» ありがとうございます慈悲をありがとうございます 次の説明欄にて書かせて頂きます!!!! (2019年1月15日 16時) (レス) id: 8c887b66b4 (このIDを非表示/違反報告)
みぞれ@絵描き同盟(プロフ) - そろそろ14巻に突入なので質問コーナーに出没してみようかと えっと、琥珀姉さんの設定において企画段階と現在で 何か変更した点はありますか? (2019年1月15日 11時) (レス) id: 9020e988e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:名無しさん | 作成日時:2019年1月3日 0時