黒猫は幸せを届けたい (ページ14)

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13個目ページ14

｢先輩！今日は大通りの方でランチしませんか？｣

｢さん、来週予定してる商談の事で分からない事があって……｣

"わたし"が後輩や同僚と働く懐かしい姿と景色に、これは夢だと、理解する。
今はもう戻れない、案外楽しかった生活。

先輩、先輩、せんぱい、センパイ

"わたし"を呼ぶ声が酷くノイズがかっていて、でも何故か"わたし"が呼ばれていると分かるのは、まだ未練があるからなのかもしれない。
でも、私はなんの関係も無い死にかけの子猫を助けちゃうし、誰よりも仲間の事を大切にしている彼と過ごしたいと思ってしまったのだ。

どうシて？
あの子だった影が、あの人だった泥が、まとわりついて絡まってくる。ごめんね、あなた達と過した時間は大切だったよ、でも、もっと大切な人達に出会ってしまったから。
だからバイバイ

バッと起き上がって周りを見渡すと、灯りを消して暗くなった見慣れた部屋で、隣にはすうすうと寝息を立てるご主人。

なんだか酷く嫌な夢を見た。内容は覚えてないけど私にとって大切な事だったと思う。
深呼吸をしても胸のざわつきが治まらなくて、ドアの隙間から出て宛もなく城を歩く。
夜の帳に包まれ誰もが寝静まった城内は酷く静かで、私以外だれも居ないのでは無いかと錯覚を起こす。

ふらふらと歩いていると、煙草の匂いが風に乗って流れてきた。
ショッピさんだろうか？嗅いだことの無い煙に惹かれ、ドアが開けっ放しにされたままのバルコニーへ向かう。

するとそこには、月の光に当てられキラキラと輝く髪に夏の空よりも蒼い瞳を持つ、この国の幹部の一人であるコネシマさんが夜空を背に煙を踊らせていた。
その姿はまるで宙に浮かぶ月のように静かで、普段見かける太陽の様な彼とは真逆の姿に驚く。

｢……なんや、お前も寝れんのか｣
ポツリと吐き出された言葉も酷く静かで、落ち着いた音をしている。

『みゃあ』

｢そうか｣

そう零すと彼はまた煙を食んでは踊らせる。その行為を黙々と繰り返していく。
何も考えずぼーっと空を眺めていると、ただ煙を吐き続けるコネシマさんが消えてしまいそうで、彼が肘置きにしている柵に飛び乗ってそっと寄り添う。

ふっ。と笑う音と一緒に嗅ぎなれてしまった煙草の火を消す音が聞こえる。どうしたのだろうかと顔を上げれば、剣だこや肉刺しの跡が残る戦う人の掌で優しく撫でられた。
その不器用な手の温もりに導かれ、眠りにつく。

｢｣

最後に零したのはきっと、