ある日の放課後 2 ページ44
さすがに気持ち悪いので文句でも言いたいが、もしかして本当に事故で起きたのかもしれない。
変な所で臆病になってしまったA。
実際に痴漢をされても声を出せなくなってしまうというのを聞いた事がある。その理由は恐怖や、周りの目を気にしてしまうなどいろいろあると思うのだが、Aはまさにその状況に置かれてしまった。
「(いっその事殴ってくれでもしてくれた方が反撃しやすいのに…。)」
こういう地味な行為が1番困ってしまう。そうして意識してしまうと些細な事にも気になってしまい、膝の間に入っている目の前の人物の足が徐々に自分のスカートの方へと近付いてきているような気がしてならない。早く電車が到着する事を願った。
「おい。」
目をぎゅっと瞑ってその場をやり過ごしていたが突如聞き覚えのある声がした。
顔を上げ声がした方へと目を向けるとそこには不機嫌そうなクラスメイト、爆豪勝己が立っていた。
爆豪は電車の揺れにびくともせず立っていて体幹が良いんだなと場違いな事を考えてしまう。
だが爆豪は目線をAの前に立っている男に向けている。
「テメー、何やってんだ痴漢野郎。」
「ち、痴漢？何を言うんだね君は！」
男はたじろぐ。そんな男に爆豪は更に言う。
「しらばっくれんじゃねーぞコラ。さっきから黙って見てれば気持ち悪い事しやがって！」
そうキレながら男の腕を掴みAから離す。すると丁度電車は駅へと到着した。
爆豪はその男の腕を掴んだまま電車を降りる。Aも慌てて後を追いかけると、爆豪は駅員へと痴漢男を差し出した。
軽く事情を説明した爆豪はくるっと振り返りAをキッと睨んだ。
「おい、何やられてんだよ！！やり返せ！！！」
「やり返せって…だって事故かな、って…」
「事故でああなるわけねーだろーがクソ！テメーの頭ん中お花畑かアホ女！！！」
爆豪に圧倒されたA。お礼を言いたいのに言う隙を与えてくれない爆豪にAはなす術なく一方的に怒鳴られた。
ーー
ようやく爆豪のお説教が終わってほっとしたA。肝心な事を言い忘れていた事に気付く。
「爆豪君。」
「あ？」
「助けてくれてありがとう。」
爆豪の赤い瞳をちゃんと見て感謝の気持ちを伝えるA。
思い返せば爆豪君にはよく助けられているなと思う。見た目や言動こそいかつい爆豪だが本当は優しいのをよく知っている。だからこそちゃんとお礼を伝えたい。
「ちっ。んな事どーでもいいかは早く帰れや。」
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作者名：nanase | 作成日時：2020年10月6日 23時
