食堂 ページ29
「ここで座っとけ。動いたら殺す！」
他に言い方はないのかというくらい物騒な言葉を残して爆豪は席から離れて行ってしまった。残されたAはどうしたらいいのか分からず言われた通りに席に座ってジッとしていた。
爆豪は案外すぐ戻って来て、Aの前のテーブルの上に乱暴な手つきで何かを置いた。
「オムライス？」
Aは目の前に置かれたオムライスに困惑する。これは何だろう、と。
さすがにオムライスは知っているし、食べた事もある。でもそれは両親が生きていた時の事だから随分と前の事だ。
では何故オムライスが自分の前にあるのだろうか。
Aは爆豪を見上げた。
「あれ？居ない…。」
先程オムライスを持って来た爆豪はもう居なくなっていた。
取り残されたAはますます困惑してしまった。
「(なんなの一体…。)」
そのままオムライスを凝視して固まっていると、謎を生んだ張本人である爆豪がまた戻って来た。
爆豪は丼の皿を持っていて、Aの目の前の席へとそれを下ろす。
Aがそれを覗き込むと中身は真っ赤。
とてもじゃないけど食べ物の色ではない。
「早く食え。」
「…え？」
「え、じゃねーんだよ！それ、食えってんだよ。」
「私が？」
いきなり食えと言われても本当に分からない。明らかな説明不足だ。
爆豪は舌打ちをした。
「いいから飯食え。飯食わねえから動けなくなんだよ。」
「…あ、ご飯を食べろって事？」
「だからそうだって言ってんだろーが。」
ようやく意味が理解できたA。
どうやら爆豪はまともに食事をとらないAを心配して食堂まで連れて来たらしい。
そしてAの為にオムライスを注文してくれた。
「それ全部食べるまで許さねえからな。」
そう言って爆豪は自分のものを食べ始めた。
それに習ってAもオムライスを食べ始めようとスプーンを持つ。
ありがとう、と爆豪に言ったが聞こえてないのか聞こえていない振りをしているだけなのか、返事はない。
久しぶりに食べたオムライスは暖かくて、ふわふわでとても美味しかった。
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作者名：nanase | 作成日時：2020年10月6日 23時
