27話 ページ28
「幸い、誰も怪我しなかった事だし…今日の練習はこれで切り上げよう。な?」
「……はい」
一星はAに抱き付いたまま、残念そうに眉を下げながら俯いて小さく返事をした。
その様子に少し弱いAは安心させるように優しく一星の頭を撫でるも、一星は俯いたまま何も様子は変わらなかった。
「…大丈夫? 怪我はない?」
「大丈夫です…っ」
「よかった…。
鬼道先輩、本当に一星くんがやったんですか?」
Aは更にぎゅうっと一星に抱き締められながら、鬼道を見詰める。
鬼道は一星を見詰めた後、悔しそうに歯を噛み締めた。そのまま口を開くことはなく、唯々一星を睨むだけ。
「…帰りの準備、しますね。
先輩行きましょう」
「あ、ちょっと…」
一星はAから離れると優しく手を握って、円堂がいるベンチへと向かう。
その時、一星とすれ違い様に小さくぽつりと問い掛けるように呟いた。
「──何を考えている、一星」
「……"鬼道の野郎"。」
返ってきたのは、恨みが篭ったような黒い声色。
その言葉は鬼道だけに届き、Aと円堂には届かなかった。
ベンチにつくと、一星は少し暗い表情で円堂とAに謝った。
「円堂さん、A先輩…本当にすみません。」
「何、お前が謝ることはないさ。」
「一星くんが態とやった訳じゃないんでしょ?」
「はい…」
目線を下ろした一星の頭を再び撫でると、少し不安が和らいだのか小さく口元を緩めてAに小さく微笑んだ。
「…あのっ! 先輩達に追い付けるよう、これからもいっぱい練習して、僕も早く試合に出たいです!」
「嗚呼! あれなら、いつでも試合に出られる!」
「本当ですか!?」
一星と円堂が会話をAは傍で聞きながら、微かな違和感を感じて不思議そうに一星を一瞥した。
「(…何で一星くんは、自分のことを"僕"と言ったり"俺"と言ったり…口調が変わるの?)」
Aはそう思いながら二人の会話を聞いていると、もう一人の男性の声がA達に掛かった。
「えぇ、本当です!」
「監督…!」
声がした方へ振り向くと、後ろで腕を組みながら笑顔を浮かべている趙金雲の姿があり、ゆっくりと歩み寄ってきた。
「次の試合、一星くんはスタメンですよ」
「やったじゃないか!」
「…! はいっ、監督、ありがとうございます!」
「いつも練習で見せてくれる、"直向きな"プレーを本番でも期待してますよ」
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作者名：りはる x他1人 | 作成日時：2020年3月20日 16時
