MO4 短編集

・嘘　マリキン ページ7

...




曇天
空も気分も調子が悪い
時々吹き抜ける風は不穏なものが入り混じっているようにも感じる


目の前には血だらけの彼女がいて
自分の手には自分か、彼女かも分からない血が付着している
あぁこの手で傷つけたんだ、と自覚するには時間は要さなかった



...恐らく彼女はもう消えてしまうのだろう
けれど最後に、最後に聞きたいことがあった



「騙してたのか」

「...うん、ごめんね？」

「全部、嘘だったのか」

「...うん、見てて面白かったよ
皆騙されてるのに気付かないんだもん」


その言葉を聞いて頭が鈍器で殴られた様な錯覚が起きた
それは、本当にお前の言いたいことなのか


「あはは、顔怖いよマリキン」


何で、笑っていられるんだ
お前はいつも、いつもそうやって...


「どうして...」



“じゃあどうしてそんな泣きそうな顔してんだよ”



そう言おうとした矢先Aによって言葉が遮られた
　

「...ねえ、マリキン」

「私達、出逢わなければ良かったね」


あぁ、何故今になって名前を呼ぶのだろう
その理由は明確で


「...俺は、少なくともA、お前との時間が楽しかったよ」


そう伝えると彼女はあっけらかんとしていた

...そしてたちまち悲しいような、困ったような
複雑な表情をした
まるで自分のやったことが全部無駄になったと言わんばかりに


「何で...今になって、言うかなあ...」


「馬鹿、馬鹿...馬鹿
嫌い、マリキンなんて大嫌い...！」


そう言った彼女の顔は苦しそうで

それでも




「俺は、大好きだ」




抱きしめてそう言うと
何かが切れたように途端に彼女の目からぽろぽろと涙が溢れ出た


「ははは...最低
ほんと、最低の英雄だね...」


「最低で結構
お前の、お前だけの最高の英雄になれたら
それでいいんだ」


「っ......」



「あはは、敵わないなあ...」


彼女は笑って
何かを諦めたかようにそう言った



「マリキン」


名前が呼ばれる





「好きだったよ」





そう言うと彼女は淡い光に包まれて姿を消した




...あぁ、失ってから気付くってこういうことなんだろうか



分かってた、つもりだったんだけど





「俺も、好きだったよ」





彼女のいない世界で一人、そんなことを呟いた









(最初で最後の本当の言葉)

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