snow white〜第６章〜(inoo kei)

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「くっそ…」




宰相補佐である高木くんに勧められ
白雪姫が心を込めて書いた
王さまへの手紙

それを読んだ王さまは
奥歯が砕けそうなほど歯を食いしばり
それからドサッと椅子に座り込みました


短い文面でしたが
そこには楽しそうな姫の姿があり
そしてさらに辛かったのが…





「かあさまのご病気は…か…」





お妃さまがこの城を去ってから
王さまはその理由(わけ)を
何度も何度も考えました


生きて、慰めあえるであろう自分ではなく
もう会えないあの狩人を追って
旅立っていったアイツ


愛してはいなかった

俺にとって山田は家族で
それ以上でもそれ以下でもなかった

けれど守ってやりたいと
心から思っていたんだ


なのにその女に
欠片も頼りにしてもらえないほど
自分はなにもできない男なんだろうか…と



そして今、白雪姫は他国に嫁ぎ
そこで幸せに暮らしていると
知らせてきました

幼い頃から慈しみ
誰よりも愛してきた
たったひとりの娘

いつかは自分のものになれと
何度も囁いて来た
幾多の愛の言葉を忘れるほど…

忘れてしまえるほど
姫は王子を愛したのでしょう



だとすれば…





「俺にはなーんも、残ってねぇな…」






白雪姫を失い
お妃さまを失い

それでも王さまにはたったひとつ
望みがありました


いつか天寿を全うしたとき
天国で再び姫と廻り逢い
今度こそ真に愛し合うのだと

それだけを支えに生きてきたのに
もはやその望みは絶たれました






「………披露の宴はいつだ。」


「半月後でございます。」





そうか、と呟いて
王さまは
箱に残ったドレスをその手に取りました





「最高の花嫁支度をしてやれ。
宝物庫をカラにしてもかまわん。」


「王！それでは…！」


「シュプーデルに使者を出せ。
正妃は行けぬが国王が行く、とな。」




おお、と喜びの声をあげる大臣たちに
冷めた一瞥を投げ掛けてから
王さまはひとり
ご自身のお部屋へと帰って行かれました




「伊野尾…」




白い白いドレスには
姫の純潔が失われた証として
濃い紅が花を咲かせています

そこにこぼれたのは
王さまの涙でした





「伊野尾…俺はお前を…」





愛していたのに…と呟いた声は
王さまひとりの胸に響いて…


寂しくひっそりと
どこかへ消えていきました





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