恋は吹き抜ける風と共に【風丸一郎太】 (ページ3)

今日:2 hit、昨日:10 hit、合計:1,237 hit

1 ページ3

「位置について」

＿トラックに響き渡る、コーチの声。

他の子達と共にスターティングブロックに立って、指を地面につく。

「よーい……」

次の合図が来たら、片膝を上げる。

走る前のこの動作は、私がいちばん好きな瞬間。

目を閉じて、ゆっくりと息を吸って深呼吸をすれば、周りの物音も、他の部活の練習の声も、何も聞こえなくなる。

……よし、集中。

「スタート！」

『……っ！』

鳴り響くホイッスル、私はそれと同時に走り出した。

腕を振り、それに合わせて足を動かせば、やがて風を切る音が聞こえて来る。

ここまで来れば、もう何も怖いものはない。

あとは、吹き抜けていく風を、感じて＿

……走る！

.

.

『……！』

自分の足が、目印の白線を通り過ぎたのを確認して、私は勢いよく後ろを振り返る。

続々とゴールする他のメンバー、一位を確信した私は、小さく笑みを浮かべた。

『よし……！』

「わあ、女子部新記録更新……！さすがです、A先輩！」

ストップウォッチを手に駆け寄ってくるのは、後輩たち。

想定もしていなかった結果に、私も喜びであっと声を上げた。

『うそ！本当に！？』

どうやら、今日は調子が良いらしい。

思わずガッツポーズをすれば、同級生や走っていた先輩も集まって、一緒に祝ってくれる。

「本当にすごいなー、Aは」

「うちのエースですもんね」

『ありがとうございます！』

……ああ、やっぱり陸上は楽しい。