余命半年のマネージャーstage４〈イナズマイレブンオリオンの刻印〉 (ページ45)

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１８２　戻れない道ページ45

「……、それは」

「Aももう14歳になるんだよ？あなたがどこにいるか、何をしているのか、そろそろちゃんと話さないと」

「……。」

男は妻の言葉に答えることが出来ず、ただその無機質な床を見つめる。

妻は直接的に口に出すことは無かったが、言葉の裏に含まれているその意味を、男も痛いほど理解していた。

……もう、時間がない。

＿男は、源Aの父親であった。

Aが病に侵され、罪悪感と絶望に耐えきれず、藁にも縋る思いで会社を財団に明け渡し、なんとかならないかと男が身一つで渡露したのはもはや随分と前になる。

妻とは定期的に連絡を取り合っているものの、娘には全ての事情を伏せていて、自らは消えたことになっていた。

"病の自分を置いて消えた"

……そんな父親が娘にどう思われるのか、そんな事は容易に想像がつく。
しかし男は、自分が犯してしまった過ちを到底許す事が出来なかった。

そして更に男は、ある目的の為に、ひたすら動き続けていたのだ。

「……Aを不幸にしたのは、俺なんだ。だからこそ、俺がなんとかしてやらないと」

「っ、また、そんな事……」

女は大きく目を見開き、悲しげにその瞳を揺らす。

そして立ち上がり、男に近づいた。

「病気だからって、どうしてAを不幸って決めつけるの」

「それは、」

「Aは、少なくともずっと不幸じゃない。今日だって、イナズマジャパンの子達がここまで一緒に来てくれたんだよ。」

……イナズマジャパン、か。

男は女の言葉に、再び俯く。

女は、暫しの沈黙の後、男の両手に自らの手を重ね、絞り出すような声で切り出した。

「……ねえ、もう日本に帰ってきて。また皆で、一緒に暮らそうよ……」

「……。」

ああ、ここで頷くことが出来たなら、どんなに良いか。
男は重くなる瞼を閉じ、暫し逡巡する。

……しかし、これは一度自分が始めたこと。

あと少しのところまで来たのだ。もう、戻ることは出来ない。

「……イナズマジャパンの事だが、Aにはマネージャーを辞めてもらいたい」

「あなた、何を言って……」

予想もしなかった言葉に、女の顔から血の気が引いた。
男はその震える手をそっと離すと、言葉を続ける。

「やっと財団と話がついた。Aにはすぐにでもロシアに来てほしい」

「Aからサッカーを奪うの……？」

震える女の言葉。
男は首を振った。

「ロシアにも、代表サッカーチームがあるんだ」