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山「俺も今からそっち行くからね。」
まだ太陽が出ていない頃だった。
天国に行けば明るくなるはずだ。
見える景色は足がすくむほど高くて高所恐怖症の俺は苛まれない恐怖だった。やっぱり死ぬのは怖いね。足が震えてる。大ちゃんもこんな思いをしながらいなくなったんだ。日常という恐怖から逃げ出したくって。
あと一歩進めば落ちる。もうすぐみんなが登校してくる。それまでに早く行かないと。
あともう少し…
あともう少しで会えるんだ…
大ちゃん、すぐに行くから……
「山田!!」
後ろから不意にかけられる声。肩を捕まれ、投げ出された。
山「…なんでいるの?」
伊「山田の考えてることなんて単純だから分かるんだよ!でもそれが大ちゃんの望んでる事じゃないことくらい分かるでしょ!」
まん丸目の俺に肩を掴んで訴えられる。
あの後聞いた話だと、いのちゃんも寝れていなかったらしい。ベッドから抜け出したことにも気づいていた。
山「大ちゃん、一人ぼっちなんだよ。あの世で。だから言ってあげないと…」
伊「そんなことしたら余計大ちゃんが苦しめられるのわかんないの?」
山「でも」
伊「今山田にするべきことは大ちゃんの分、幸せに生きる事だよ、そうでしょ?」
俺はすっかり自分のことしか考えられていなかった。死のうとしたのは現実に耐えきれなかったからだ。
もうこれ以上、大ちゃんを苦しめちゃいけないんだ。
伊「ちゃんと自分の人生を生きればいいじゃん」
受験が無事終わって、俺といのちゃんは都内の同じ大学に進んだ。3人で目指していた大学だった。
それから人が変わったように明るくなって、友達も沢山できた。髪も染めた。彼女を作った。全部俺と大ちゃんのやってみたかった事だ。
毎日大ちゃんに今日あったことを報告する。いつも笑って聞いてくれるんだ。返事は帰ってこないけど。
山「やっぱりいないよ、大ちゃん以上の人。」
結局大ちゃん以上に心の隙間を埋めてくれる人はいなかった。だからすぐに別れてしまった。
それから何となく満たされない日々を、送って何年か経った。
目まぐるしく回る日々でいのちゃんとの連絡も薄れ、大ちゃんのことも少しづつ忘れていった。
ー回想終ー
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作者名:まる | 作成日時:2019年8月24日 12時