精一杯の贈り物を貴女へ 〜肆〜 ページ28
昼間とは打って変わって上機嫌に炭治郎は山を登った。ごそごそと取り出した赤い端切れ布を掲げると、太陽の光に照らされて鮮やかに光っているように見えた。
何て綺麗な赤だろう..。
ーA姉さん、喜んでくれるといいなぁー
本当は既製品のを買ってやれたら彼女の手を煩わせなくて済んだのだけど、これが今の炭治郎に出来る精一杯だ。それでも優しい彼女はきっと、ありがとうと微笑んでくれるに違いない。
「ただいまー!」
「あ!兄ちゃんお帰りぃ!」
パタパタと弟妹達が駆け寄って来る。土産の草餅を取り出してやると皆大喜びで小躍りし、母さんは父さんを祀っている神棚にそれをお供えした。
「母さん、A姉さんは?」
「あぁ、Aなら外の納屋にいるんじゃないかしら?」
そう言われたので、炭治郎は胸元にしまってある例の物をしっかり確認すると、足早に家の裏手へと回った。そこにはちょうど納屋から適当な薪を手にした彼女の姿があった。
「あら炭治郎!お帰りなさい」
にこりと笑って彼女はこちらに歩み寄ってきた。外仕事で邪魔だったのだろう。いつも身につけている髪紐でどうにかまとめてはいたが、糸がほつれていたので明らかにそれは年季が入っているのがわかる。
よし...
緊張した面持ちでいるのが何となく伝わってしまったらしく、彼女はキョトンとした顔で炭治郎を見つめて来る。意を決して彼は懐から例の物を取って差し出した。
「ぇ..これ。」
「A姉さん、髪紐がボロボロで困ってたから。その...ごめん。本当は既製品を探したんだが、なかなか高価で手が出せなくて。だから、代わりにと言ってはなんだが、呉服屋の女将さんが親切にただで端切れをくれたんだ。A姉さんの手を煩わせてしまうのは申し訳ないんだが、この布で新しく髪紐を..」
不意に訪れた暖かい温もりに炭治郎は息を飲んだ。
「ありがとう炭治郎。貴方は本当に優しい子ね。」
耳元で穏やか声色が響く。日溜りの匂いに包み込まれ、体の力が抜けるように絆されていくのがわかる。
今、俺...A姉さんに抱き締められてる。
そう頭が理解した途端、胸が高鳴り、顔はみるみるうちに火照り固まった。
「綺麗な赤色...とっても気に入ったわ。よーし!うんと可愛いリボン作ろう!」
そう言って彼女は蔓延の笑みで布を広げて見せた。
それを見た炭治郎は、じんわり心が満たされていくのを感じた。
ー喜んでくれたみたいだ...良かったなぁー
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ライ - 全然大丈夫です!むしろ八千代さんの書いた星詠みの設定凄く好きなのでその設定にして頂けるとこちらも嬉しいです♪ありがとうございます! (2020年9月18日 12時) (レス) id: 36dcb4ceb6 (このIDを非表示/違反報告)
ライ - ありがとうございます!!こちらこそよろしくお願いします!! (2020年9月18日 12時) (レス) id: 36dcb4ceb6 (このIDを非表示/違反報告)
八千代(プロフ) - ライさん» ただ基本星詠みの番外編とさせていただいてるので、設定はそちらに寄せさせていただきますのでご了承ください。頑張って書きます! (2020年9月18日 12時) (レス) id: 769605b6ca (このIDを非表示/違反報告)
八千代(プロフ) - ライさん» コメントありがとうございます(*´-`)その設定は私としても大好物です笑 是非リクエストに応えさせたいただきたいので宜しくお願いします。 (2020年9月18日 12時) (レス) id: 769605b6ca (このIDを非表示/違反報告)
ライ - いつも更新楽しみにしています!勝手なのですが、炭治郎がヤンデレで夢主が他の男性と仲良くしているのを見て激しく嫉妬するお話を書いて頂けませんか…?良ければお願いします!! (2020年9月18日 12時) (レス) id: 36dcb4ceb6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:八千代 | 作成日時:2020年8月1日 19時