血の味はソロウ ページ42
退院した伊沢は、少し細くなった気がする。
エアコンをかけて温かくなった部屋のソファーに座ると、スーパーで買ってきた惣菜を並べる。
伊沢は自炊をしないので、部屋にはあまり調理器具がない。
食材を買ってきても満足な料理が作れないので、伊沢の家に行くときはこうして適当な惣菜を買ってくることが多い。
……と言っても、殆ど酒のあてになるようなものだけれど。
「それで、いつのまにかそんなことになってたのか」
酒をあおりながら伊沢が聞く。
「……うん」
「世の中には色んな人がいるもんだな」
「…………そうだね」
「河村さん、俺には会ってくれないのかなあ」
「……きっと会ってくれるよ」
「で、お前はどうするの？」
伊沢に昔、「結婚しよう」と言われたことがある。
まだ30手前の、若くて元気だった頃のことだ。
その時伊沢が何を言いたかったのか、僕にはよく分からない。
黙ったままの僕から目をそらさず、伊沢はピーナッツ味噌を箸で摘んで口に入れた。
「俺はいいと思うけどな。河村さんに、理解ある女性。仲良くやっていけそうじゃん」
だから僕は、今伊沢がこんなことを言う理由も分からない。
「……他人事のつもりなら口出ししないでくれる？」
怒気を孕んだ口調に、伊沢の瞬きが一瞬止まる。
けれど、そんなことも見越していたんじゃないかと思うくらいに、伊沢の身体はぴくりとも動かない。
「そんなつもりはないよ」
伊沢は平坦に言う。
呼吸が止まる。これ以上そのことについて考えていたら、気が狂ってしまう。
伊沢の唇に、噛み付くようにキスをした。哮りが舌と、歯と、指先から滲んで、そのまま伊沢の身体に伝わっていく。伊沢はそれを受け止め、身体の中に押し留めた。
呼吸の隙間から、涙の味が口の中に混じり、そして微かに、血の味がした。
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ななほし(プロフ) - *ゆ う*さん» ご連絡ありがとうございます。申し訳ありません、お名前は水内碧（みずうちあお）で固定となっております。名前変更に対応しましたら、別途お知らせさせて頂きます。どうぞよろしくお願いいたします。mm (2021年1月24日 2時) (
レス) id: d363622c09 (このIDを非表示/違反報告)
*ゆ う*(プロフ) - すみません、名前等は固定ですか？もし私の手違いでしたら申し訳ありません。 (2021年1月23日 16時) (レス) id: 0fa02a4fcb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ななほし | 作成日時：2021年1月21日 19時
