ちっちゃいともくんと、私。

《ともくんと、おしゃべり。》 ページ42

_



私 side











ともくんは、おしゃべりが苦手。





自閉っ子くんの特徴のひとつ。





今おしゃべりできるのは、2語だけ。





「ママ」と「ありがとう」。





でも、どっちも自分からは言えない。





「どうぞ？」といわれて、「ありがとう」。





「これ誰？」と私を指差して、「ママ」。





「ありがとう」を1年生の終わりに獲得してからは、それ以外の言葉が一向に増えない。





ともくんのペースでいいんだけどね、あんまりにものんびりさんだと心配だから。





言語の教室には、1年生になってすぐから通い始めてたんだけど、なかなか馴染めなくて体調を崩した。





それ以来は辞めちゃって通ってない。





また、通い始めたほうがいいのかな。











「ともくん、これだあれ？」

「……………ま、ぁ、…」

「じゃあ、これは？」(ともくんを指差す)

「…………」











せめて、自分の名前は言えてほしいな、って思ってもう3年ぐらい。





もしも迷子になったときに、自分の名前が言えたら、見つかる可能性ってぐんと上がるらしいから。





ってことで今日から本格的に、お名前をいう練習スタート。





「お名前は？」と聞かれたらでもいいから、どうにか言えるようになってほしい。











「お名前は？ お名前はなんですか？」

「…………」

「お名前。 かみやまともひろです。 ふふっ、ぎゅーじゃなくて言ってよー。笑」











まだまだ道のりは長そう。





でも、確実に一歩一歩近づいていけば、ゴールにたどり着くはずやから。





諦めないことが大切。





でも、その前にともくんは、おしゃべりしたい、っていう気持ちがあるのかな。





知りたいけど、それを知るためにもおしゃべりがいるから結局わからないままで。





ぎゅーして、私の首元をくんくんしてくる、ともくん。





これや顔で言いたいことが大概わかるようになった、私も悪いのかな。





いろんなことが頭の中に巡ってくる、休日の昼。





お腹すいたね、ご飯にしよっか？











「よし、ご飯作ろう。 ママ、ご飯作るね？」











そう言えば、ともくんはぎゅーから離れて、いつもの机によじ登る。





言葉の理解力はあるのにね、どうしておしゃべりは苦手なんだろう。





はやくはやく！、って言いそうなキラキラのお目目を見て、疑問に思う。





ママも、ともくんとおしゃべりしたいんだけどなぁ。











(NEXT)

2.→←6.

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す