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「・・・Aちゃんはさ、樹のこと、好き？」
この沈黙を破ったのは、森本先輩だった。
「・・・嫌いじゃないです、けど」
私が今の今まで考えていたことをなぜ口に出せるんだ、この人。怖。
「いや、そういうんじゃなくてさ、樹のことを恋愛対象として見てるの？っていう事」
「・・・え？」
そこまでは考えていなかった。
私は、あの日を越えてから、恋愛をしないと心に決めている。
もしも異性に心揺さぶられたときがあったとしても、それは気のせいだと思うようにしている。
あの日は、私の性格をを変えた。
私の人格を変えた。
私の人生を変えた。
今も夢に見る、あの日のことを、私は忘れられない。
「・・・別に、そこまでは」
「ふーん、じゃあまだ俺にもまだ可能性があるって思っていいわけね」
「ですね、ゼロじゃないと思いますよ、１００のうちの１２くらいは」
「お、意外に高い」
森本先輩がへらっと笑う。
絶対にかなわない恋愛なんて存在しないなんて言ったら、それは嘘になる。
けれど、嘘じゃない。
私からは頑張ってとしか言いようがないけれど、私はどういう形であれ森本先輩には幸せになってほしいと思っている。
絶対に私に好意を抱かない森本先輩の隣にいるのは、心地よかった。
樹先輩は？
私に好意を抱かないなんて確信できる？
・・・まあいいや、今そんなことを考えていてもしょうがない。
「ところで、今どこ向かってると思う？」
「・・・いや、どこですか」
「もうすぐ着くから」
ていうか、これには目的地があったのか、知らなかった。
「ほら、着いた。すぐだったっしょ」
「・・・えっと、アパート？」
そこにあったのは、築３０年くらいのアパートだった。
カンカンと階段を上がる森本先輩に、一応付いて行って、二階の一番端へとだどり着く。
「・・・ここって、」
「そ。樹ん家」
そこの表札には、「田中」の文字があった。
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作者名：nanaco | 作成日時：2024年2月4日 10時
