【企画設定集】妖滅隊【+派生作品】 (ページ34)

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「可哀想だわ」

涙が溢れる。どうして人というものは、こんなにも愚かなのだろうか。どうして、自分の、敵の力量すらも分からぬほど、愚かでしかいられないのだろうか。
丹頂は、痛みに呻きしゃがみこむ彼に、また刀を向けた。そして静かに呟くのだ。

「一撃で殺してあげれなくて、悪かったわ。ええ、本当に、そう思っているの」

そして刀をまっすぐに、冷徹に振り下ろす。そうすれば、彼のその体に刀は突き刺さっていただろう。そのはずであったのだ。

「……」

キィンと、金属の重なり合う音がする。丹頂の頬を伝っていた涙が、ぴたりと止まった。刃は男に届くことなく、もう一本の刀で抑えられている。彼女はゆっくりと顔を上げて相変わらず冷めたその瞳で、ゆっくりと刀の持ち主に目を向けた。持ち主は、6尺ほどのこの時代にしてはとてつもない大柄の男。

「邪魔、しないで頂戴」

「……」

彼女は言った。彼は何も言わない。するとまた、丹頂はボロボロと涙を流し始めた。

「ひどい、ひどいわ。彼はこんなにも苦しんでいるのに。早く殺してあげないと、ずっと、ずぅっと辛いまま。そんなの、そんなの、悲しいわ。悲しいわ」

哀れみの目を先ほどの隊員に向け、涙を流す丹頂に、男は訝しげな瞳を向ける。この妖怪は、一体何を言っているのだろうか。

「貴様のしたことだろう」

静かな声だった。丹頂は目をパチクリさせて、男を見る。

「だって、だって、その人が私に刀を向けたんだわ。だから斬ったのよ。私は戦いたくなっていったもの」

またもや男は訝しむように眉を寄せた。

「だから、殺してあげた。こんな、つまらない人間のために、わざわざ、刀を振るってあげた。可哀想だわ。哀れだわ。私ったら、なんて可哀想なのかしら」

そして着物の裾で目を拭う。男は理解した。彼女の言う「可哀想」は、隊員に向けてではなく、自分に向けてだったのだ。それならば、男は持っていた刀を握り直す。

「……やめたほうがいいと思うの」

それを見た丹頂は、静かに言う。いつのまにか涙は止まっていて、四白眼の瞳を、スゥッと細めていた。

「なぜ」

男は短く問うた。問うたところで、出した刀をしまうことは決してないだろうが、とにかく問うたのだ。

「私とあなたじゃ、決着なんてつかないわ。お互いに大怪我をして、それで終わるの。私はきっと治るけれど、あなたは人間だわ」