【企画設定集】妖滅隊【+派生作品】 (ページ33)

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丹頂の話。ページ33

「ああ、」

声が漏れる。それと同時に、ボロボロと涙がこぼれた。なんて、なんて哀れなのだろう。目の前にいる彼は、なんて不幸そうな顔をしているのだろう。彼のことを思えば思うほど、涙が止まらなかった。
その日は、雲の多い夜だったと、丹頂は記憶している。綺麗な満月が、雲に隠れて中々出てこず、それがどうしようもなく悲しかったのだ。

「可哀想だわ……」

着物の裾で目元を隠し、また涙を流す。自分が妖怪になった時から、……いや、もしかすると人間であった時からかもしれないけれど、とにかく涙が止まらないのだ。心を無にしない限り、涙はずっとこぼれ続ける。

「ああ、悲しいわ。悲しいわ」

溢れる声を我慢することなく吐き出して、彼女はソッと彼を見上げる。彼は明らかに不機嫌な顔をして、座り込む丹頂を見下ろしていた。

「だけれど、興味がないわ」

結局は、それなのだ。不幸そうな人間には悲しいという感情を抱くけれど、それが果たしてどこから来るのかはわからない。幸せそうな顔をしている人たちを恨めしく思って、殺めてしまうけれど、こんな顔をしている人間を見れば、果てしなく心が痛んだ。

ぎゅーっと、ぎゅーっと。大切な部分が押し付けられるような感覚。それが果たしてどこから来るものなのかはさっぱりわからないけれど、どうしようもなく、悲しいのだ。

丹頂はもう一度目元を拭って立ち上がる。そしてたんたんと地面を蹴って、彼から離れた。

「戦わないわ。戦いたくないの。だってあなたと戦っても、私は何にもいいことだなんてないのだもの」

雲の間から差し込む月の光に反射して涙が光る。頭の中に虫でもいるかのように、ぶーんぶーんと耳鳴りがして、そのせいで男の言っている声が聞こえない。

「可哀想だわ。なんて可哀想なのかしら。哀れ、哀れね」

しかし、丹頂がどれだけそう願っても、相手は妖滅隊なのだ。戦わずして、済むわけがない。丹頂は悲しげにまた呻き、そして腰に差していた刀を抜き取る。そして斜めに構えた。

だけれど、やる気などでない。逃げてしまった方が、いいではないか。戦ったところでどうせ自分の悲しみに蓋をされることはないのだから。ボロボロと、涙がこぼれおちる。

「だけれど、まだ、もう少し、早いと思うの」

ゆらり、そう彼は感じた。他に表現など、彼にはできるはずがなかった。だってそう感じたその時には、彼の腕は、胴体から離れていたのだから。