離れと奇襲 ページ5
あれから2枚の罠を張り直し、廊下に足を踏み入れた。ギシッと音がする。
思い切り足を振り下ろせば踏み抜けそうなほど傷んでいるその廊下は、歩く度ギシギシと酷い音を立てた。
その廊下も、そしてその横に見える庭も酷い荒れようだ。
所々血が付いていたり、池や草木は枯れていたりと、この世の地獄と言っても過言ではないだろう。
政府から支給された携帯端末でマップを表示しながら進む。
「まずは離れに向かえ」と政府からメールで連絡があったからだ。
「次を曲がった先……うわ」
つい声に出てしまったが、それも仕方の無いことだと思う。
襖の表に血が染み出しているのだ。
これは流石に無いだろう。僕でも引く。
離れは本館と繋がっていて、そこを繋ぐのは1本の細い廊下のみだ。
「……恐らく「離れに近付かない」とだけの制約を立てて籠城したんだろうな…それで銃兵か何かで殺されたか。」
ここに送られる新しい審神者とは名ばかりの人柱 (ただ「審神者」という歴史的な役割からしたらあながち間違いではないのだが) は新人が殆どだ。
そのため銃兵やら投石兵といった遠戦用の刀装を知らない場合が多い。
「そこを狙われたんだろうな……」
「ご明察」
「！」
先刻も聞いた、結界が刃を防ぐ音。
「へえ、対策はきちんとしてあるみたいだね。」
振り返ると片目を隠した男が立っていた。
「……にっかり青江、だったか。」
「そうだよ。僕はにっかり青江。」
「何の用だ」
「僕はただ審神者が見えたから斬るだけさ。もう二度とあの子達が傷つかない為にもね。」
「こっちもはいそうですかと殺される気は無い。」
「だろうね。前はそんな人間もいたけど、君の目は「生きること」に対する渇望で溢れてる。」
そうだろうな。と内心で吐き捨てる。
「……引け、にっかり青江。」
「引かないさ。引く訳がないだろう？」
「なら、僕は全力で抵抗するが。」
「構わないよ。正当防衛だからね。」
そこら辺は分かっているようだ。
言ってはなんだが珍しい。
にっかり青江が刀を構える。
「さあ、斬ったり斬られたりしよう。」
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作者名：桜子 | 作成日時：2018年5月20日 22時
