▼落とされる39 ページ39
ut「…もう寝たら？熱あがってまう」
『逃げるんだ、うつくん』
ut「逃げてへんよ。おるから、ちゃんと…な？もう疲れとるんやって」
今ここで口を開いて話し始めてしまえば、もう元に戻れない気がした。彼女は熱に浮かされて、元気になった途端忘れてしまうのだろうけれど俺の方はそうはいかない。きっと一生背負うくらいの傷を負って、もう二度とAと言う人間とちゃんと向き合えなくなりそうだった。
あの綺麗な目を、もう見れない気がして。
大人になんてなりたくないだとか、そんな子供みたいな事を今更言うつもりはない。
ただ、大人に近づくに連れて、Aちゃんと俺の距離は確実に遠のいていっていた。それから目を背ける様になって一体何年経ったのだろう。
彼女の方もきっと俺と同じ考えだ。嫌なところが昔から似てしまった二人は、もうきっと無邪気に笑っていたあの頃には戻れそうに無い。
僕は彼女をAちゃん、と。
そして彼女は僕を鬱くん、と。
『うつくん…？？』
護衛とお嬢様。
一生交わることのない思いに気がつかないふりをして早数年。今になってそれを表に出そうとも思ってはないけれど、彼女にそんな声を出されたらもうどうすればいいのか分からなくなってしまいそうだ。
俺はただ、どこかに拠り所があればそれでいい。ただ寂しさを埋めるだけならその辺の女でも半日くらいならきっと事足りていた。
けれど、彼女はどうだろうか。
ut「んー？今日はえらい寂しがり屋さんやな」
『はは、そうかもね…熱のせいにしといてよ』
ut「ふは、なんやそれ」
ずっと孤独である彼女を知ってしまったら、俺はもうそこにしか辿り着けなくなってしまっていた。
捨てないで欲しいなんて声に出せる訳もなく、彼女からする許されるラインというのをずっと探って生きてきた。そうでもしないと、この役を切られたら俺も、家も終わってしまうから。
というのがきっと建前で。
本当はただ、彼女だけには嫌われたくないのだろう。
ut「さ、病人は早よ寝てな」
俺の手を軽く握ったまま、彼女は緩く目を閉じた。
ut「おやすみ、"A"」
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和奏(プロフ) - めちゃくちゃ好きです…… (2022年7月23日 1時) (
レス) @page30 id: 670d6c146b (このIDを非表示/違反報告)
葛 - 帰って来て欲しい、、この作品はめっちゃ神だから、、我儘言ってごめんなさい。他でなんか言ってたらすみませんm(_ _)m (2021年4月1日 11時) (レス) id: e3a78427cf (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：零
| 作成日時：2021年1月5日 17時
