▽感情89 ページ43
声が出ない事を、声を出せない事を、自分の意思を吐き出せない事を、これ程までに苦痛に思った事は無い。今までは当たり前だったそれが、今この状況で異常として受け止めている自分に気がついた。
tn「…Aが、自由になったのに、って思うんやったら全部、忘れてええから。これだけ言いたくてな……？情け無い話やけど」
すっと息を吸う。冷たい空気が体内に入って、ほんの一瞬身体が冷えた。心臓を吐き出してしまいそうなくらいに、胸の奥が苦しい。"すき"という好意はこんな感情なのか。御伽噺の中に出てくるお姫様は、上官が口にした言葉は。
書記長が私から手を離そうと、握っていた掌を少し広げる。それが妙にゆっくり、私の目にはっきり映し出された。これが拒絶では無い事を知っていた。書記長が今手を離そうとしているのは、そんな感情では無いことくらい。
『あ、』
ぴたりと書記長の手が止まる。大きく見開かれた書記長の瞳が視界に入って、反射的に離れ掛けていた手を私から握り返した。
『しょ、…き、ちょう』
拙い言葉を吐き出す。言葉が喉を掠れて外へ出てくのに、少しだけ痛みを感じたが完全に話せないと言う訳では無いみたいで。
書記長は固まったまま、私のことを見ている。
きっと、…否、確実に。この選択は合っていて、これは、私が抱くこの感情は、
『"あい"、してぃます』
合っている筈だ。合っている筈だ。
合っている、んだ。
私の知らない感情を、物を、世界を見させてくれたこの人に私は敬意以外の感情を抱いた。上官に向けられていた慕う感情とは全く異なる厄介な。婚約相手だと信頼したのではない、私は書記長を信頼したのだ。
どきりと高鳴る心臓も、きっとこの熱くなっていく手も、きっと全部書記長の所為なんだろう。
主人を抜いても、書記長といたい、と思うのは。側にいてもいいと、側にいて欲しいと願うのは。
私も、書記長と同じ様に"あいしている"からで。
tn「A、」
どくどくと心音が聞こえて、怖い様な嬉しい様な温かい様な、喉の奥が焼ける様で、視界が揺れていく。
『しょき、…ちょ』
tn「ぁあもお…、泣かんといてくれ」
『…』
tn「う"…無理に我慢せんくてもええんやけど、な？」
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すみれいん(プロフ) - 零さん» す、すげぇ…もう…考える力が凄いです。素敵なお話ありがとうございます！！！ (2021年1月31日 17時) (
レス) id: a715f4eb82 (このIDを非表示/違反報告)
零(プロフ) - おぼろどうふさん» えぇ！！！ついにですとも！！！ありがとうございます笑 遂にですね…本当に嬉しい限りです、ありがとうございます！ (2021年1月30日 11時) (レス) id: c17c74b3a4 (このIDを非表示/違反報告)
零(プロフ) - シャノ＠楓さん» 声が…声が……声の重要性は感情が芽生えたからこそ分かったんです……声がぁ…（自分で書いてて悶えてます） (2021年1月30日 11時) (レス) id: c17c74b3a4 (このIDを非表示/違反報告)
零(プロフ) - すみれいんさん» 飴ちゃんがこんな風にして使われるのは、knさんが飴渡し始めた時から構想にいれたりはしてました笑 ありがとうございます、そう言って頂けるととても嬉しいです！ (2021年1月30日 11時) (レス) id: c17c74b3a4 (このIDを非表示/違反報告)
零(プロフ) - 真さん» 書いてる自分もしんどくなってたりします……… (2021年1月30日 11時) (レス) id: c17c74b3a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：零
| 作成日時：2020年12月30日 18時
