命がいくつあっても足りない。【赤井秀一】

▽２話___「緑色が覗く」 ページ7

何がどうなって私はこの男に抱きしめられているのか。道行く人の冷たい視線…というか、「若いわねぇ」みたいな、優しいご老人の声も聞こえる。
いや、違う。
知らないぞ、こんな男。


確かに此方を捉えたあの"緑色"は、数年前に飽きる程見ていた部下の目だった。



"『えーと、あはは。君がFBIに来るとは』"

"「目的ならあります」"



いや…だかしかし、確証が無い。

ん？？？無いのか？今名前呼ばれて抱きしめられたのが証拠では無いんですか？
いやいや、新手の詐欺とかでは。
そもそも、髪色だって顔だって雰囲気だって


変わったのは"赤井秀一君"、君の方じゃないのか





『いや、あの…すみません。』




FBIと連絡を切った訳ではなく、ただ姿を見せなくなっただけである。
とはいえ、部下にも一言も言わずにFBIから去った身である事に変わりは無い。


姿をバラす訳には…




『あの、？』




その声にビクリと肩を揺らす男は、ぱっと私から離れて怪訝そうに一瞬眉を寄せる。それからすぐに緑色が消えて「突然すみません」と謝罪。

あの雨の日の青年は未だ健在か…？






現状、確実に彼の方が歳上だろうし。敬語を使うのは当たり前として…。
この場をどう切り抜けるかが問題である。


嘘を吐くか走って逃げるか、




「___知り合いに、似ていたもので」




…無理そう(遠い目)


忘れていた。こいつは、何をやらせても有能すぎる…上司として逆に怖くなってくる様な部下だった。




「…名前、聞いてもいいですか」
『…』




玖我Aです、と心の中で一人呟いてもこの場が進展する様には思えない。







「私の名前は"沖矢昴"です。
ある人を探していて…良ければ話を聞きたいのですが、宜しいですか?」






雨の日に、傘を差し出して私が言った職権乱用。




「因みに、拒否権はありません」




立場逆転の瞬間である。



.

▽３話___「疑い深くあれ」→←▽1話___「拒否権は無い」

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す