命がいくつあっても足りない。【赤井秀一】

00.緋色の青年 ページ3

私が渡米したのは数年前の事。
どれもこれも、今の職であるFBI捜査官になる為であって…職務試験がどうこうと難しい事を言われたのが全ての始まりだったりするんだけど。

今日は生憎の雨。紺色の傘をさして、見慣れた街並みを歩く。くそ……こんな事なら外に出なければ良かった




『はぁ……雨なんてついてないな』




短くため息を吐いて、ふっと遠くの方に目を向ける。丁度その時だった。こんな雨の中傘もささずに、雨に打たれて壁に寄り掛かって座る人影が見えたのは。

素通りをしても良かったのだが、これでも一応FBI。
んまぁ、新人なんですけどね
だからといって新人を理由に、見過ごす訳にもいかない。



『…ぁ、』



_____近くまで寄ってみて気づいた。

相変わらず危機感というかなんというか…観察眼が機能しない自分を恨みたいくらい。
座り込んでいたのはまだ十代半ば、後半くらいの青年で。


頬に擦り傷を負っている辺り、荒手の若人にも喧嘩売られたのか。それとも単純に転んだか。

日本にいた時なんて深夜のコンビニによくいたし…あれか、地元が田舎すぎたのか？？？



『___ねぇ、君…大丈夫？』

「…」



私の声は聞こえたらしく、ビクリと肩を揺らしてゆっくり顔を上げた青年は薄く目を開いた。

反応があるのを確認しつつ持っていた傘を其方へ少し傾ける。開かれた瞳は綺麗な緑色で、歳の割に顔が整っている。
…将来有望ですねこれは。



結局世の中顔なんだよなぁ(真顔)

私も超絶美少女兼ハイスペック、そしてあわよくば絶対音感を持って生まれたかった。



『君、名前は？』
「…」

『何があった』
「…」

『行く宛は？』
「…」



なんだこの子供(ガキ)は。
やんのかコラァ。

此方の質問をガン無視して、じっと此方を睨む様にして見る青年。警戒心全開なのは仕方ないが仕事を増やすのはやめて欲しい。
軽々しく此方の個人情報を渡す訳には…



けどな…

これ以上ここで座り込まれて、何か事件に巻き込まれても危ないし。何より私がFBI捜査官としての首を落とされる予感しかしない。




『はぁ…私は、FBIだ。君と少し話がしたいんだけれど、
___勿論、拒否権は無しでよろしく』




はじめての職権乱用。



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