命がいくつあっても足りない。【赤井秀一】

▽７話___「鋭い視線を」 ページ12

勘違いしたままでも流石に沖矢さんに悪いので『違うよ』と笑いながら弁解すれば、案外簡単に信用を得られた。そういうところは子供らしい。
時折、疑いの色が子供二人の瞳の奥に見え隠れしてたけど。大丈夫だよ多分。



「僕達、少年探偵団なんです！」
「お姉さん優しいから、困った時はいつでも歩美達に言ってね」
「今度は元太くん達も連れてきましょう！」
「うん！」



楽しそうに、無邪気に笑う子供に罪は無い。
探偵なんてまた不思議な遊びを…、



『探偵さんかぁ』

「あっ、お姉さん信じてない！」
「僕達本当に探偵団なんですよ！」



探偵ごっこはだいぶ前に飽きた。

『信じてるよ』と口で言っても駄目らしく、「なら元太くん達も紹介します」と元気の良い返事。
私的には、紹介されても何だって良いのだが沖矢さんの顔の雲行きが怪しい。

どした。



「コナンくんや哀ちゃんも紹介すれば信じてくれるよね！」
「そうですね、あの二人なら___」


「すみません、」



光彦君の方がそこまで言って沖矢さんがそれを遮る。子供の意見を遮るのもどうかと思うが、仕方なさそう。
沖矢昴がどんな人間かを見るのにも丁度良いし。

先からぶっ刺さる黒い何かが消えるのであれば、言いたい事言って欲しい。






「この後、本当に忙しい用事もありますし…
コナン君達を紹介するのは、また今度ではいけませんか？」





子供らと目線を合わせる様に少し屈んだ沖矢さんは、笑顔を貼りつけてそう問うた。


「用事があるなら…仕方ないですよね」
「うん…なら、また今度絶対に紹介するね！」



ありがとう、と笑った沖矢さんはすっと姿勢を直す。
私も私で黙っているのはなんだか可笑しい気もするから、にこりと笑って『また今度』と口にした。


約束。



そう付け足せばぱっと顔を輝かせて子供らしく返事をした二人。それから手を振って、この場を後にする。



「飲み物、冷めてしまいましたかね」
『珈琲は冷たくなってましたよ』
「なら淹れ直さないと」



そう言った沖矢さんの目は笑っていなくて、まるで急かす様に私を再び中へ招き入れた。
じゃぁね、という元気な子供の声がまだ耳の奥で響いている気がした。

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