▼意味02 ページ2
あっ、と思った。
彼女の手にあるのは、俺らが戦地でよく見る痛み止めの薬の入った紙袋だった。小さなそれは俺だって使った事がある。彼女は場が悪そうに少しだけ眉を顰めて俺を見た。侍女長は、申し訳なさそうな顔をしていた。
大部屋から此方の様子を覗くようにして、侍女達が息を潜めている。
「それでは、何かありましたら私達をお呼びくださいトントン様。Aさん、呉々も粗相なきよう」
『……承知いたしました、シグレ侍女長』
その視線に気がついてか、侍女長は大部屋へ入るなり、ぱたりと扉を閉めた。重苦しい空気が流れた後、すぐに彼女はその紙袋を後ろへと隠して綺麗に礼を一つした。
侍女以前に、模範的な女であった。
女に求められるべく謙虚さも、男に対する敬いの加減も、見事なほどだ。そこらの令嬢だと言ったらきっと公爵家も騙せる事だろう。
tn「Aさん、今回の戦争にはあんたが出る事になった」
それは死刑宣告と同等の意味を持っていた。
戦地と、救護班に混じって侍女も一緒に連れて行くことになっている。向こうでは食事の管理や身の回りの世話をしてもらう。この宣告をする時は大体侍女は、いまのこの制度にキレ散らかすか諦めて泣き喚くかの二択だ。
侍女に手を出す大先生は、この知らせをするのがいちばん苦痛だと言っていた。
だから、少し身構えたのに
『承知いたしました。日取りをお教えいただけますか』
は？、と素っ頓狂な声が出た。
侍女長と言った返事となんら変わらない声であった。あまりにもすんなり飲み込まれたこの知らせ。
彼女の顔は、笑顔のままだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 384人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
優斗サブ＠２(プロフ) - 更新だ…！なんとも淡々としていて妙にリアルなこの小説が好きです…！ (2022年12月6日 19時) (
レス) @page18 id: 8ea04a0aaf (このIDを非表示/違反報告)
零(プロフ) - 優斗サブ＠２さん» そのように思っていただけたようで何よりです。個人的にシリアスなものが好きなので、そう言っていただけて飛んで喜びました。お気に入り登録ありがとうございます！最後まで楽しんでいただけたら幸いです😌 (2022年12月5日 19時) (レス) id: 7ee9bc58ce (このIDを非表示/違反報告)
零(プロフ) - y1157aさん» 心温まる感想、ありがとうございます。他作品も読んでいただけたとは…！嬉しい限りです。パスワード作品に関しましては殆どが制作中ですので、出来次第順次公開していく予定ですので、暫しお待ちいただけたらと思います。作品投稿全力で頑張ります！！☺️ (2022年12月5日 19時) (レス) @page7 id: 7ee9bc58ce (このIDを非表示/違反報告)
優斗サブ＠２(プロフ) - よくある、悲劇のヒロインの皮被った作品なのかなぁと思ってた自分を殴りたいです…いや殴ります。こういうタイプのシリアスを求めてたんすよね…！！！！！お気に入り登録失礼します(⌒∇⌒) (2022年12月5日 18時) (レス) @page9 id: 8ea04a0aaf (このIDを非表示/違反報告)
y1157a(プロフ) - 作品大好きです。1度見て全ての作品読ませて頂きました。もしよろしければパスワード付きの作品を読ませていただければと思い感想の方投稿させて頂きました。新作の作品投稿これからも頑張ってください応援してます！ (2022年12月5日 0時) (レス) id: 24a3afa354 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：零
| 作成日時：2022年8月9日 8時
