色鉛筆を持って ページ29
入学式の翌日
Noel
「海斗、おはよう。今日は半日で終わりだよ。頑張ろう」
熱がないのを確認してから、腕を摩って覚醒を促す。ゆっくり目を開けた海斗の目は不安に揺れていた。昨日の説明会で、最初の1週間頑張って登校することの大切さを何度も説明されたし、阿部先生も、頑張れるところまで頑張ってね、と言っていた。だから今週は熱がなければ、遅刻してでも、泣いていても、とにかく学校に連れて行こうと思っている。昨日は入学式から帰った後、玄関で過呼吸を起こしてしまい、強めの薬を飲んで眠った。夕飯時には少し調子を取り戻してきたが、いつもより早くベッドに入った。寝付くまでは行かないでと言って、手を繋いでいたが、思いのほか早く眠っていた。それだけ疲れていたのだろう。
「海斗」
もう一度声をかけるとゆっくり起き上がって、ボロボロと涙を流した。
「やすみたい」
「うーん、しんどい時はお休みさせてあげたいけどね、僕も今日午前中会社にいかないといけないし、学校の先生も、阿部先生も、今週は初めてのことが多くて辛いかもしれないけど、頑張りましょうって言ってたよ。ゆっくり準備して、行くだけ行ってみよう」
初日からスムーズに行けるとは思っていなかったので、予定より早めに声をかけていた。案の定ベッドから降りるまでに30分かかり、着替えもひとつひとつ手渡しながら、ゆっくり話しかけて、やっとの思いで制服を着終わった時には、出発まで30分を切っていた。
「朝ごはん、少しだけでも食べられそう？」
結局薬だけ飲み込んで、何とか玄関に座らせる。
「海斗、頑張って偉いね」
真新しいローファーを出すと、靴べらを使って丁寧に足を入れる。靴磨きは好きそうだから、後でやり方を教えてあげよう。
「のえる、お迎えは、何時？」
「今日はお昼前に終わるから、11時40分下校なんだって。その時間には、駐車場にいるようにするね」
「お仕事は？」
「午後は家でやるから大丈夫」
「ん、、わかった、、ありがとう」
そう言っていつものように手を差し出す。その手を優しくとって、外の世界へ導いた。
「いってらっしゃい」
保護者は、駐車場で車の中から見送ってください、と、学校側から言われている。何度も振り返ってしまうのもかわいそうだなと思い、１回だけ手を振って、早めに車を出した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 166人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「TravisJapan」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
イカ(プロフ) - みくさん» コメントありがとうございます！好きと言っていただけて、嬉しいです。これからも不定期になってしまうかもしれませんが、更新を続けていきたいと思っているので、今後もよろしくお願いします！ (2022年7月15日 6時) (
レス) @page46 id: bba6564774 (このIDを非表示/違反報告)
みく(プロフ) - このお話、みんなあったかくて大好きです！何回も読み返すぐらいファンなので、更新楽しみにしています！！ (2022年7月15日 5時) (レス) @page46 id: 660cb7e6f7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：イカ | 作成日時：2022年6月27日 21時
