◇記憶と涙 ページ23
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まだ構造もよくわかってないビルの中。
1限目始業のチャイムを無視して、
その廊下をただやみくもに走った。
途中ですれ違った他クラスの先生なんかに
どうしたのかと声をかけられたけれど、
それさえも振り切るようにひたすら走って
階段を駆け上がって。
目を閉じても耳を塞いでも
頭の中で再生される映像は止まらない
―――なぁ。自分、名前は?
やだ
―――明日の放課後、またここで
お願い、やめて
―――好きやで、A
やめてよ
―――全部…遊びに決まってるやん
やめて
やめて
ヤメテ…!
『黙れーーーーっ!!!』
プツリ、あたしの中で何かが弾けるのと同時に
階段を上りきった先に手を伸ばして開けた扉。
お腹の底から叫んだせいで若干ビブラートが掛かったあたしの声は、駅前のビル街を鋭く突き抜けて、濃紺に染まりつつある夕空へと吸い込まれていった。
荒い呼吸のまま呆然と立ち尽くすあたしを
包み込むように冷たい風が吹き抜けていく。
『ここ…屋上…』
さっきの大声とは対照に
消え入りそうなほど小さな声で呟くと
屋上の硬いコンクリートの上に
崩れ落ちるように座り込んだ。
涙なんて
とっくの昔に枯れ果てたと思ってたのに
『ふざけんなっつーの…』
なんで今更
全部思い出させるようなこと
『マジでっ…ウザいんですけど…っ』
“…もしかして、八神A?”
脳内では未だにクソみたいな過去の記憶と
さっきのアイツの声がぐるぐる流れ続けている。
忘れていた数年分の涙が
一気に出てきたんじゃないかって思うほど
それはボロボロ溢れ出して止まらない。
頰が濡れる
服も、心も
何もかもびしょ濡れだ
―――Aちゃん…ほんまは俺のこと…
涙を止めようとぎゅっと閉じた瞼の裏に
傷ついた顔をするまるちゃんの姿が映って
『りゅうへっ…ごめんね…隆平…っ』
物哀しい夕闇の空気に包まれ
バカみたいに泣きじゃくった。
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作者名:べに x他1人 | 作成日時:2015年11月27日 21時