◇茜空 ページ15
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…え?
《知ってる奴って言うか…関わったことある奴?
おったりしたんちゃうかなーって…》
亮の言葉に一瞬思考が停止する。
忠義、信ちゃん、美雪…
一人一人の顔を思い浮かべてみるけど、
みんな間違いなく昨日が初対面。
廊下ですれ違った別のクラスの人とか先生とか
思い出せる限りの顔を頭に浮かべる…
だけどやっぱり
初めて出会った人ばかりのような気がして
『居ないよ』
ついにあたしはそう答えた。
『知ってるも何も、初対面の人ばっかりだし』
《え…?》
亮はあたしの返答に戸惑っているようだった。
まるで独り言のように“でも確かに…”と発したきり
何か考え込むように口を閉ざしてしまう。
どうして?
彼処に何があるの?
亮は何を知っているの?
《…や、ええわ。おらんのなら良かった》
そこで初めて柔らかくなった亮の声。
本当は何を知っているのか。
誰から何を聞いたのか。
訊きたいけれど、亮って正直者だから。
そんな亮が話したがらないことなんだから
きっとよっぽどの内容なんだろう。
そんな話を聞いて学校に行けなくなるよりは
モヤモヤしても何も知らない方がマシだ。
『…ね、それより亮もこっち来なよ。7時から店開けるって先輩言ってたし』
《ん…行こかな。橋本と一緒なんやろ?》
『うん。待ってるから早く来てね』
あ、でも安全運転でね!?と慌てて付け足すと
亮は笑いながら“事故らんから安心しろ(笑)”って。
…そんなこと言って、去年に接触事故で
肋骨二本も折ってるくせに
あの時、あたしが大泣きしてる傍で
“たまには怪我するのも悪くないな”なんて言うから
思いっきりほっぺた引っ叩いたっけ。
《すぐ行くわ》
そんな言葉と同時に通話の切れたスマホを
握り締めて、あたしはそのまま店のテラス席に
一人座り込んだ。
なんとなく落ち着かなくてため息をつくと、
椅子の上で両膝を抱えて。
亮が来るまでここで待っていよう
冷たくなった指先に息を吐きかけて、
茜空にうっすらと浮かぶ月を眺めながら。
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作者名:べに x他1人 | 作成日時:2015年11月27日 21時