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彼女が作ってくれた何の変哲もないただのホットケーキが、今まで食べた中で一番美味しかった。
もしこの先物を食べる事が出来なくなるとしたら、一番最後に食べたいのは、あのホットケーキだと思う。
「えっ、テレビが映らない?」
『はい…。きちんと設置していただいたのですが、リモコンのどのボタンを押しても全く。』
「んー、なんでやろ。ちゃんと電源ボタン押した?」
『はい、赤いボタンだと説明書に書いてありました。でも、何度押してもだめなのです。』
「うーん。…あ、じゃあ俺が、」
『そうだ、あの!佐野さんにご連絡していただけないでしょうか?』
「…え?」
俺が行って調べてみようかと伝えようとしたのに、彼女はまるで良い事を思い付いたと言わんばかりの顔で、俺にそうお願いをしてきた。
また、玲於か。
ていうかなんで彼女はそんなに玲於に心を開いてるんだろう。
まさか、もしかして。
「…なんで、玲於なの?」
『テレビを選んでくださったのは佐野さんでしたし、恥ずかしながら佐野さんくらいにしか頼れません。』
「玲於にしか頼めへんって…、まあ、ええけど。」
『本当ですか?ありがとうございます!』
分かってる。
彼女の中ではきっと、ただ単に玲於が選んでくれたイコール玲於なら直せるという、何の根拠もない考え。
俺なら直せるよと言えばいいだけの話。
それがなんで言えないんだろう。
玲於に彼女の連絡先を伝えて、大丈夫なようなら見てあげてとメッセージを送った。
あとはもう二人に任せよう。
リビングで洗濯物を畳む彼女の姿を見ながらソファで寛いでいると、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。
その時初めて身体全体に異変を感じた。
痛い。
肩、背中、腰、足、全部がとにかく痛い。
何て表現したらいいか分からないほど痛む。
夢なのか、現実なのか、どっちの自分が痛いと感じているのか定かじゃないけど、とにかく苦しかった。
『…さん、片寄さん!』
「っ、え?」
『大丈夫ですか?すっごく魘されてたから…。』
「…あ、ごめん。」
『すごい汗。今お水持ってきますね。』
「ごめん、ありがとう。」
目を開けると心配そうに俺の顔を覗き込む彼女の姿。
身体は、まだ少し痛む。
夢じゃなかったんだ。
急いで持ってきてくれた水を受け取った時、掴んだはずのペットボトルは床に落ちた。
右手で広い直しても、やっぱり蓋をあけることは出来なかった。
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えすちゃん(プロフ) - 続きが気になります! (2018年10月16日 23時) (レス) id: 6b458d06dd (このIDを非表示/違反報告)
こじゃる(プロフ) - また更新が再開されるのを楽しみにしています。 (2018年9月15日 21時) (レス) id: 39b5516bcc (このIDを非表示/違反報告)
emry(プロフ) - pomuさん» pomuさん、ありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです!!これからも頑張りますね♪ (2018年7月24日 14時) (レス) id: ed62ca3d67 (このIDを非表示/違反報告)
pomu(プロフ) - はじめまして!!作品毎日楽しみにしています! (2018年7月23日 14時) (レス) id: 356e20fead (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:emry | 作成日時:2018年7月10日 1時