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家に戻ると彼の様子がさっきと違う。
僅かではあるが、元気がないような気がした。
聞いてみてもそんなことないとしか言われないけど、前はあんなに料理の手伝いをしたいと言っていたのに、今日は手を出そうともしなかった。
佐野さん達が帰った今は、奥の部屋に入ったっきり出てこない。
部屋の前で耳を澄ませてみても、中から物音はひとつもしない。
『あの、片寄さん。片付けが終わりました。』
「ありがとうございます。もう上がってください。」
『…分かりました。では、失礼しますね。』
「はい。」
部屋をノックし扉越しに声を掛けると、やはり元気のない声色で返事が返ってきた。
いつもなら玄関まで見送りにきてくれるのに、その気配もない。
何があったのか分からない私には、何も出来ない。
でも、このまま帰るなんて出来ない。
「え、ちょっ、何でまだおるん?さっきもう帰るって…。」
『あっ、…ごめんなさい。』
「なんかやり残したことでもあったん?それなら今日はもういいから、早く帰っ、」
『あ、あの!』
「…え?」
『これ、後で食べてください。』
「ホットケーキ?」
せめてもの元気付けの為に、勝手にではあったがホットケーキを作った。
怒られてしまうかもしれないとも考えたけど、私にはこんなことしか思いつかなかった。
『前に、祖母がテストで良い点をとった時に作ってくれたとお話したのを覚えていますか?』
「うん、もちろん覚えとるよ。」
『実は、私が元気の無いときにも作ってくれたんです。いじめられてることは祖母には言えなくて、学校から帰って泣いている私に、何も聞かずに作って出してくれました。』
「…そうなんや。」
『片寄さんを元気にしたいって思っても、こんなことしか思いつかなくて…。』
やっぱりこんなことしなければ良かったのかも知れないと思いながら、ごめんなさい頭を下げた。
頭を上げて彼の顔を見ると、静かに涙を流していた。
『えっ…。ごめんなさい、やっぱり迷惑でしたよね。』
「ごめん、違う。…嬉しくて。そんな風に気にしてもらえてた事が嬉しくてさ。ありがとう、Aちゃん。ほんま嬉しいわ。食べてもええ?」
『はい!もちろんです。』
「ん、めっちゃ上手い!ありがとう。元気出ました。」
そう言って私を見た彼の顔は、偽りなんかじゃなくて正真正銘の笑顔だった。
やっぱり私は彼のこの笑顔が、大好きだ。
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えすちゃん(プロフ) - 続きが気になります! (2018年10月16日 23時) (レス) id: 6b458d06dd (このIDを非表示/違反報告)
こじゃる(プロフ) - また更新が再開されるのを楽しみにしています。 (2018年9月15日 21時) (レス) id: 39b5516bcc (このIDを非表示/違反報告)
emry(プロフ) - pomuさん» pomuさん、ありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです!!これからも頑張りますね♪ (2018年7月24日 14時) (レス) id: ed62ca3d67 (このIDを非表示/違反報告)
pomu(プロフ) - はじめまして!!作品毎日楽しみにしています! (2018年7月23日 14時) (レス) id: 356e20fead (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:emry | 作成日時:2018年7月10日 1時