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彼女といると、素の自分でいられた。
輝いている俺を知らないから、背伸びをする必要もない。
彼女が来るようになって、今日はちょうど1ヶ月を迎える日。
たまたま仕事終わりに立ち寄った店で、俺は彼女への感謝の気持ちを込めて、ある物を買った。
『じゃあ、私はそろそろ失礼しますね。』
「あ、ちょっと待って!あの、これ。」
『え?』
「開けてみて?」
『…エプロン、?』
俺が見つけたのは、紐だけがチェック柄の水色のエプロン。
たまたま目に入った時、何故か彼女の顔が頭に浮かんだ。
いつも家に着くと必ずエプロンをするところから始まる姿が、俺はなんとなく好きだった。
そのエプロンが、俺があげたものだったら嬉しいだろうなって、そう思って。
「青空さん来てから、丁度今日で1ヶ月やから。いつもありがとうの気持ちを込めてプレゼント、です。」
『…。』
「気に入らんかった?」
『いえ、そうじゃなくて…。お客様から頂き物をするのは、禁止なんです。』
「えっ。そう、なんや。そっか、そりゃあそうやな。…ごめん、じゃあこれは忘れてください。」
エプロンを見ながら、そう彼女が言った。
とんでもない空回りだ。
そんな事、ちゃんと考えれば分かるはずなのに、一人で空回って、馬鹿みたいだ。
でも、すぐ彼女の手からエプロンを取ろうとしたのに、彼女はぎゅっと掴んだまま離さない。
「え、青空さん?」
『…個人的に、という形でも良いでしょうか。』
「え?」
『お客様の片寄さんからではなく、…その、片寄さんという私個人の知人からという事でも、良いでしょうか。』
「もちろん!」
『…ありがとう、ございます。大切に、使います。』
「っ、!」
彼女が、笑ったのを初めて見た。
緩く、ふわっと笑った。
エプロンを胸に抱き、優しく微笑んだ。
好きだ。
直感でそう思った。
まだ知り合って1ヶ月しか経ってないのに、どうしようもなく好きだという感情が、沸き上がってきた。
『綺麗な色、ですね。』
「え?あ、はい。青空さんに絶対似合うと思って。名前と同じような、綺麗な水色と青やったから。」
『初めて自分の名前が、嫌いじゃないと思えました。』
「嫌い、やったんですか?」
『大嫌いです。自分とは対照的なこの名字が。でも、…青空で良かった。』
対照的なんかじゃない。
対称的の間違いだ。
だって、その笑った顔は青空以上に綺麗だった。
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えすちゃん(プロフ) - 続きが気になります! (2018年10月16日 23時) (レス) id: 6b458d06dd (このIDを非表示/違反報告)
こじゃる(プロフ) - また更新が再開されるのを楽しみにしています。 (2018年9月15日 21時) (レス) id: 39b5516bcc (このIDを非表示/違反報告)
emry(プロフ) - pomuさん» pomuさん、ありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです!!これからも頑張りますね♪ (2018年7月24日 14時) (レス) id: ed62ca3d67 (このIDを非表示/違反報告)
pomu(プロフ) - はじめまして!!作品毎日楽しみにしています! (2018年7月23日 14時) (レス) id: 356e20fead (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:emry | 作成日時:2018年7月10日 1時