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もう少し先の横断歩道を渡るつもりだったのだろう、彼女は俺たちが停めた側とは反対の歩道を歩いている。他の生徒のほとんどは先に渡ってきているから、彼女の歩くほうはかなり人通りが少ない。
昨晩落としていった生徒手帳を忘れず持ち、車を降りて道路を渡った。

「おっはよ〜、Aちゃん」

伊吹が手帳に記された名前を読み上げ、彼女の肩をトントンと軽く叩く。Aと呼ばれた少女は驚いたように肩を揺らして立ち止まり、すぐにイヤホンを外した。ぱっと人懐こい笑顔を浮かべるが、一瞬だけ気まずそうに表情を歪ませたのを俺は見逃さない。

「昨日のお兄さん!え、なんで名前……」
「歩きスマホ、危ないんでやめてくださいね。佐倉(さくら)Aさん?」
「大事なモン落としてたから、届けてあげよっかなーってさ」

その言葉で俺が生徒手帳を差し出せば、あっと声を上げてブレザーの胸ポケットを探った。自分のがそこにないことを確かめ、再び俺たちを見上げる。

「嘘、落としてました?わざわざすみません」
「……いえいえ」

手帳を受け取る手が伸びてくる。しかしその手は手帳を受け取ることなく、伊吹の手によって遮られた。

「……もういっこ、言うことあんじゃねーの?」

伊吹の声がワントーン低くなる。女子の前でこういう態度になるのは珍しい。てっきりまずいことを言及されて慌てるのかと思ったが、佐倉は少し揶揄うようなからからとした笑顔を崩さなかった。

「なんで勝手にいなくなったの。あんな状況で急に消えたら普通、大人は心配する!わかるよね?」
「えー?ごめんなさい、お母さんがすぐ帰ってこいって連絡してきて」
「だとしてもさぁ……」
「伊吹。やめとけ」
「志摩ぁ!」

サングラス越しに少し不機嫌な目が佐倉を宥めた。相対する佐倉も少し煩わしそうにするのがわかる。二人の間に流れる空気が悪くなるのを感じて、咄嗟に伊吹を軽く押し戻す。
彼女……佐倉Aは、俺たちが警察官であることを恐らく知らない。昨晩警察手帳を提示したのは見ていないはずだし、ここでの俺たちはただのメロンパン屋としてしか認識されていないだろう。

「とにかく、無事ならよかったです。……時間大丈夫?」
「あは、そうですね!何かとありがとうございました。それじゃ!」

不服そうな伊吹を見ないふりしたのか、佐倉は短めのスカートを翻して高校へと向かった。



「佐倉さん、またパパかな」
「にしては若いし、さすがの佐倉さんもパパと朝から会わないでしょ!」
「だよね。二人組なのもおかしいか」





「……パパ?」

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namida(プロフ) - みやびさん» ありがとうございます。そのワクワクを裏切らないよう善処します(><) (2020年9月15日 22時) (レス) id: 0ab56b3b00 (このIDを非表示/違反報告)
みやび(プロフ) - お話が好きで、ワクワクしながら更新を待ってます^ - ^ (2020年9月15日 21時) (レス) id: 75a1d276d4 (このIDを非表示/違反報告)
namida(プロフ) - リンスさん» ありがとうございます。あまり期待はせずお待ちください…笑 (2020年9月15日 16時) (レス) id: 0ab56b3b00 (このIDを非表示/違反報告)
リンス - 続き待ってます!! (2020年9月15日 0時) (レス) id: 8ca4368cf9 (このIDを非表示/違反報告)
namida(プロフ) - SEIさん» 嬉しいコメントありがとうございます(><)私も3ページ目なんかはサントラ『志摩一未』をイメージしていて、ドラマの世界観を壊さない小説を心がけているので嬉しいです。今後もよろしくお願いいたします(;_;) (2020年9月13日 16時) (レス) id: 0ab56b3b00 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:namida | 作成日時:2020年9月8日 10時

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