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通報者の事情聴取は401に任せ、404は現場の確認、また目撃者がいないか調査を開始した。鑑識は手すりなどから榊の指紋の採取を始める。
「……警視庁の九重です」
「どうも陣馬です。改めて、名前と住所。教えて貰えますか」
話にだけ聞いていたAを初めて目の当たりにし、九重はついまじまじと彼女の格好を見てしまう。その視線がバッグに刻印されたFURLAのロゴを捉え、少しだけ冷めた視線を顔に戻すと、視線に気付いていたAは居心地悪そうに九重を睨んでいた。
「……佐倉A。港区西麻布3-25-2」
「表参道には、どういう用事で?」
「別に、買い物です。ひとりで」
「その割には荷物が少ないようですが……」
「まだ何も買ってないだけですから」
陣馬主体の事情聴取に、Aは臆することなく気怠そうに答える。いかにも嫌な女子高生、と九重は疎む気持ちを隠し、答弁を細かくメモに記した。
「佐倉さん、榊一誠さんが歩道橋の階段から転落するところを見ましたか?」
「……私は上にいたんです。駅から、向こうの道を歩いてて。歩道橋を渡ってこっちに来るとき、この人が落ちるのが見えて、追いかけました」
目の前で人が転落なんて、ショックな光景のはずだ。陣馬はまだ若いAの体験を心苦しく思った。
「……悪い九重、ちょっと離れる」
「えっ」
「雑談でもしとけ」
不意に遠くを睨んで急ぐ陣馬にぽんと肩を叩かれ、九重はやりづらそうに首の後ろに手をやった。
二人きりで残されても気まずいと、顔にわかりやすく書いてある。察しがよく達観したAはふうと息を吐いて九重を見上げ、おもむろに話し始めた。
「……九重さん、フルネームは?」
「はい?」
「下の名前。なんて言うの」
「……九重世人、ですが」
「ヨヒトね。世人」
呼び捨てかよ、と九重は心の中で呟き、呆れたように目を逸らす。全然楽しくなさそうなのに、何故か舐められてるのだけは伝わってくる。
「世人の親ってどんな感じ?いい人?」
「……は」
「雑談でもしとけって言ってたじゃん。もしかして世人ノリ悪い?」
雑談でも、の流れでするのがよりにもよって親の話とは。悪気はないのだからたちが悪い。
「私はね、親に苦労させられたタイプ」
「……」
「お母さんがわけわかんない新興宗教にハマって、お父さん呆れて家出てって。生活費はくれるって約束だったのに、もう連絡も取れない。生きてるか死んでるかもわかんない。お母さんは明らかに怪しいジュエリーとか買わされてるし、家はその請求書だらけ」
早口に言ってのけるAの口調は内容に反して軽く、冗談めいていた。
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namida(プロフ) - みやびさん» ありがとうございます。そのワクワクを裏切らないよう善処します(><) (2020年9月15日 22時) (レス) id: 0ab56b3b00 (このIDを非表示/違反報告)
みやび(プロフ) - お話が好きで、ワクワクしながら更新を待ってます^ - ^ (2020年9月15日 21時) (レス) id: 75a1d276d4 (このIDを非表示/違反報告)
namida(プロフ) - リンスさん» ありがとうございます。あまり期待はせずお待ちください…笑 (2020年9月15日 16時) (レス) id: 0ab56b3b00 (このIDを非表示/違反報告)
リンス - 続き待ってます!! (2020年9月15日 0時) (レス) id: 8ca4368cf9 (このIDを非表示/違反報告)
namida(プロフ) - SEIさん» 嬉しいコメントありがとうございます(><)私も3ページ目なんかはサントラ『志摩一未』をイメージしていて、ドラマの世界観を壊さない小説を心がけているので嬉しいです。今後もよろしくお願いいたします(;_;) (2020年9月13日 16時) (レス) id: 0ab56b3b00 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:namida | 作成日時:2020年9月8日 10時